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15. 異能陣取り合戦が始まりました

 いよいよ、異能陣取り合戦が開幕する。

 私は所定の位置に移動しながら、不安げに辺りを見回す。始まってしまえば、問答無用で襲われたりするのだろう。


 ちなみに、私とエルはピンクチーム。スカイとリッカは黄色チーム。エースとリーフ、レイは水色チーム。アルトとアリスが白チームだ。


 私は手に持ったピンク色の旗を見つめる。五本ずつ配布されていて、学園中に散りばめられたスポットに旗をさせばそこはその色のチームの陣地となるのだ。


「せめて一本は……」


 そう呟いてため息をつく。

 すぐにエル先輩と合流できるといいけれど……それに、なんかエースにも捕まえる宣言をされているから気を付けないと。


「異能陣取り合戦スタート!」


 スピーカーから興奮気味の声が聞こえたと思ったら、周りが一気に騒がしくなった。

 他の色のチームを襲っているんだ。頭に被った帽子に旗を刺されると生徒はゲームオーバーとなってしまう。


 とりあえず、この血気盛んなところから脱出しよう……!


 私はゾンビゲームで活かした逃げ技を駆使しながら、さっとその場を後にした。




 私は校舎へと向かっていた。ここは割と安全地帯らしい。

 それもそのはずで、このゲームには一発逆転にもなり得るルールが存在している。それは、地図でいうと中心にあたる中庭のど真ん中に用意された巨大スポットに旗を刺してしまえば勝利、という素晴らしいものだ。

 目立ちたい、勝利に貢献したい生徒たちは主にそこへ向かうのだ。


「シオンー!」


 そうぶんぶん手を振って駆け寄ってきたのはアリスだ。思わず安堵の息を漏らす。


『どんな相手でも気を抜いてはいけないよ!』


 エルがそうアドバイスしてくれたのを思い出して、私は少し距離を取る。するとアリスはじりじりと距離を詰めてくる。

 ……そして。


「シオンーー!」

「いやあ、こないでーー!」


 なぜかすごい勢いで追いかけられて、私もない体力を振り絞って逃げる。こんな序盤で捕まるのは恥ずかしすぎる!


「もう! えいっ!」


 私は意を決して振り返り……頭に向かって旗を振り下ろす。


「ええ、もしかして捕まっちゃったの!?」


 アリスが目を丸くして帽子に刺さった旗を確認する。そして「もう少しやりたかったわ」とがっくりと肩を落とした。



 怖い……まさか友人に追われるとは。アリスは純粋に楽しんでいる様子だったけれど……もはや私はゾンビから逃げている雰囲気しか感じられない。


 でも、一本刺せた! 



 ふふふ、と上機嫌でうろついていたらなんだかんだで生き残り続け、旗も残り一本になっていた。

 ゲーム終了まで、残り10分と迫ってきていて、体力も限界に近づいていたため、私は木陰に身を潜めることにした。


 日陰で気持ちいいなー、なんて思っていると。


「ピンクチームのやつだ、捕まえようぜ」とわらわらと他チームの男たちが寄ってきた。


 よってたかってきて卑怯だ! と言いたくなったけれど、こう屈強な男たち相手では何も言えない。

 仕方ない、と自ら歩み出た瞬間。


「こいつは俺が予約してんだけど」


 ばっと木の上からエースが姿を現した。いつからいたんだ、と目を丸くしているうちにエースは屈強な男たちに旗を刺していく。


 お礼を言おうとしてハッとする。捕まりそうだという状況には変わりない。


「先輩との勝負は俺が勝ちかな」


 エースは上機嫌で私へと歩み寄ってくる。

 今度こそ捕まる……!


「負けって決めつけないでよね!」


 私とエースの間にエルが割って入ってきた。なんてナイスタイミングなんだ、と私は感心してしまう。


「俺が捕まえるんです!」

「私が守るの!」


 2人は叫びながら互角の戦いを繰り広げている。エースは宙に浮かんで、エルは目で追えない速さでエースをかわしている。


 それにしてもこのバトルを生み出している原因が私だということに引け目を感じずにはいられない。


 そう完全に観客の気持ちで眺めていると、私の目の前にニヤリと笑う男の人が立ちはだかる。慌てて後ろを向くとそこにももう1人。

 完全に挟み撃ちにされてしまった。ぐわっと迫る彼らに私は思わず屈む――


「あれ?」


 ゴンっと鈍い音がしたと思ったら、大の字になっている男の人たち。

 お互いにぶつかるなんて、お笑いか! と思いながら無事かどうか確認する。


『あとはネク先輩に任せて……中庭に……』

『エル先輩を足止めして……』


 ツンっと体をつつくとそんな声が聞こえてきた。


 ネク先輩って誰だろう……そんなこと言ってる場合じゃなくて!


「エル先輩ー! 中庭に向かってください! きっとネクって人がいるはずですー!」


 いまだに張り合っている2人に向かって声をかける。のびていたはずの男たちが目を丸くして、エースも「あちゃー」と苦笑いしている。


 エルは私たちを一通り眺めてから大きく頷いて走り出す。私は逃げようとする男たちを押さえつける。


『それにしてもエル先輩可愛いよなぁ。頭も良くて運動もできるとか……』

『男たちみんなの憧れだよなあ……』


 私は思わず目をパチクリした。

 この前のヒソヒソはこっちの類のものだったのか……

 とても安心したけれど、鼻の下を伸ばしている彼らは気持ち悪くて押さえつける力を思わず強めてしまった。


「シオン、アウトー」


 気がつくとエースが私の真後ろに立っていて、ニマニマしていた。男たちを押さえつける力を緩めて帽子を確認すると、そこには水色の旗が刺されていた。


「やられちゃったー」


 私はへへっと笑う。エースは素直な反応に驚いたのか少しフリーズしてしまっている。


「隙あり!」


 私はそう叫ぶと同時にエースの帽子に残りの旗を刺す。


「うあっ!」

「私が素直に負けを認めるわけがないだろう」


 ドヤ顔をかまして、少し悔しそうなエースを見る。もう私の頭はすっかりゲームモードになっていて言葉遣いまでそれっぽくなってしまう。


『いちゃいちゃしてんじゃねぇよ……』


 私は声がした方をギンッと睨みつける。間違いなくこの男たちの声だ。


「してないし!!」


 私はふん! と鼻息荒くその場から立ち去る。

「何て言ってたんだよ! なあ!」とエースが追いかけてきたが、私は黙り込むに徹した。





 あのあと、中庭では壮絶なバトルが繰り広げられたらしい。あのエルと互角に戦える相手はそうそういないだろうに……相手の顔が見てみたい。


「ああー、負けちゃったーー!」


 エルが悔しげに私とエースの元へとやってきた。


「お疲れ様でした! エル先輩、とってもかっこよかったですよ!」

「ありがとうー、でも勝ちたかったなあー!」


 結局勝ったのは水色チームだったようだ。エースはふふんと嬉しそうにしている。


「あの、エル先輩のあの速さも異能なんですか?」


 あの速さとは、エースと戦っていたときの速さのことだ。あの速さは人間業ではないだろう。


「うん! 動きを素早くできる異能だよ。数分しか効果がないんだけど、何だか燃えちゃって。いつもより速かったかなー!」


 エルはそう笑顔で言う。動きを素早く……遅刻にはうってつけの異能だなあ……


「あ、今回は負けちゃったけど、エースと戦うのとっても楽しかったよ! ありがとうね!」


 エルはそう爽やかな笑顔のまま、エースに手を差し出した。エースもその手を取り、2人は握手する。


「俺も楽しかったです」


 そのやりとりはまさに青春の1ページという感じで、私まで嬉しくなってしまった。

 異能陣取り合戦、けっこう楽しかったな!


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