14. ヒソヒソ話は好きになれません
「……というわけで、異能陣取り合戦のクラス係はシオンさんに決定だね」
ジル先生がニコニコの笑顔でそう言い、クラスからはわあっと謎の拍手が起こった。私は呆然と黒板に書かれたあみだくじを見つめる。
「もう1人、男子で出てくれると助かるんだけど……」
そうジル先生が目を向けると、みんな目を逸らす。それだけ面倒くさい係なのだ。
「じゃあ、俺やります」
声がした方を向くと、エースが手を挙げていた。
とっても心強い……! とキラキラした眼差しを送った。
異能陣取り合戦とは、学年クラス関係なくピンク、黄色、水色、白の4つのチームに分かれ、より多くのスポットに旗を刺したチームが勝利というゲームだ。異能あり、捕まえて人数を減らすこともできるという、運動音痴&異能バレ厳禁な私にとっては地獄のようなイベントなのである。
「エースありがとうー!」
「くじ運悪すぎだろー。まあ一緒に頑張ろうぜ」
エースはからかうように笑う。私たちはその係会に向かっているのだが、エースの足取りはなぜか軽い。運動出来る人はいいよなぁ、とため息をつきながら私は重い足取りで向かった。
「じゃあ、今から係会を始めます!」
そう宣言したのはエースより明るいオレンジ色のポニーテールをした少女。私よりも小さくてなんだか可愛く思えてしまう。
「私は2年B組のエル・ラピッドリー。係長とゲームリーダーを務めます! みんな何か分からないことがあったらいつでも聞いてね!」
先輩だったのか、と驚いていると色んなところからヒソヒソと声が聞こえてきた。その声の大半が男子からだ。
話こそ聞こえないけれど、それがエルに向けられていることはなんとなく分かった。
「エース、あの先輩のこと何か知ってる?」
「うーん……なんかけっこう有名なことは知ってるけど……」
いまいちな返答に、エースもこういうのには疎いんだ、と分かる。一方でエルはそんなヒソヒソ話にも動じる気配はなく、説明していく。
「まあ、良い先輩っぽいし、いいんじゃない?」
「そうだね」
私は話の内容が気になりつつも、頷いた。
ヒソヒソ話は、あまりいい気分にはなれない。
「いよいよ明日だね……」
そう呟きながら私とエースは会場準備に取り掛かっていた。エースは配布用の旗を色分けしながら言う。
「明日は俺ら敵だもんな」
そう、明日私とエースは敵チームとなる。無作為で振り分けられたため、なんとも言えないが、非常に心細い。というか、あっという間にやられそうだ。
はあ、と大きくため息をついていると。
「いい感じだね!」
エルが満面の笑みで私たちにそう言ってきた。
私は思わず言葉に詰まる。どうしても昔の自分を思い出す。そう思うと、エルも傷ついているんじゃないかって思ってしまう。
「そういえば、たしか明日は同じチームだね!」
「そうなんですか? あれ、でも先輩もゲームに参加できるんですか?」
認知してもらえていることや、同じチームだということ、ゲームリーダーだと言っていたことなどがごっちゃになって私はだいぶ失礼な感じに質問してしまった。
「うん! 生徒は全員参加だからね。旗スポットは先生たちが用意してくれるから対等にできるし問題なしだよ!」
エルはニコニコと嬉しそうに言う。そんなエルにエースが笑って言う。
「先輩、こいつすっごい運動音痴なんで、助けてやってくださいね!」
「ええっと、エースくんだっけ? 明日はたしか敵同士だね。じゃあ私がシオンちゃんを守るから!」
「じゃあ俺も手加減なしでいきますよ。俺が先にシオンを捕まえますから」
エルとエースはすっかりバチバチと燃え上がっていて、なぜ取りあわれるのが私なんだ! とつっこむこともできない。
「じゃあ、明日。そーだ、シオンちゃん。今から作戦会議しよ!」
「え、あ、はい!」
そう私は腕を引っ張り上げられた。
『絶対1番取るぞー! まずはあそこから攻めて……』
エルの声はすごく楽しそうだ。すでに作戦が練られていてびっくりしてしまう。
「エル先輩! 明日、頑張りましょうね!」
私がそう言うと、エルは一瞬キョトンとしてから大きく頷いた。
なんだか明日がとても楽しみになった。
すぐ捕まらないように頑張ろう……!




