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13. 出会いイベントだと錯覚しそうでした

「終わったあーー!」


 ペンを投げ捨てて、私は思いっきり伸びをした。


「けっこう難しかったね……」

「出来はどーよ?」


 そう私を囲んだのはリーフとエースだ。同じクラスの2人とはなんだかんだ一緒にいることが多い。


「まあまあ、といったところかな」


 そう言いつつふっと笑う。私の中では割とできた方だと思う。


「2人は?」


 尋ね返すと、リーフは自信なさげに笑って、エースは満面の笑みで、


「いい方かな」


 と言った。これができる人の余裕なのね……!


「な、テストも終わったことだし、部活もないし、なんか食べてこーぜ」

「じゃあ、スカイとアリスも呼んでいいかな?」


 エースが提案し、リーフが賛同してスカイとアリスにすぐさま連絡を取る。エースもリッカに連絡する、とスマホを取り出す。

 私たちは今から学園内にあるカフェに向かう。美味しいごはんもあればスイーツもジュースも揃っている。

 さすが国随一の有名学園はやることが規格外だ、とうんうん頷きながら教室を出た。




「スカイとアリスは向こうで待ってるってー」


 リーフがスマホを覗き込みながら、そう言う。

 私たちはカフェがある方角へと歩いていた。

 すると。


「生徒会ご一行が来るわ!」

「今日もいちだんとお美しい……」


 突然道がぐわっと開かれて、生徒たちは壁際によって一点を凝視している。ときめいている者もいれば既に気絶した者までいる。


 これはまるで……出会いイベント!

 廊下の向こう側から現れるイケメンに主人公はときめいてしまうのよ……

 今、まさにそれが起ころうとしている!


 目をギンッと光らせていると、たくさんの人影が現れた。金細工の花があしらわれた青と白の腕章が左腕につけられている。


 これが、この学園の生徒会……!


 遠目で見ても美形揃いなことがよくわかった。

 後ろの方を歩く水色の透き通る長い髪の女性。手を振る生徒に優雅に一礼する美しさ。

 生徒会長の斜め後ろを歩く白髪の青年。歩き方にも気品が溢れているが、ファンサはしないのか、生徒たちには無反応だ。

 そして――生徒会長。赤みがかった茶色の髪がとても綺麗だ。整った顔、抜群のスタイル。生徒たちに笑顔で手を振り返しては女子の屍を生産している。


 うっとりと、彼らに目を奪われていると、私のすぐ傍を通る。

 チリン、と鈴の音のような音がしたと思ったら、生徒会長と目があった。彼は微笑むと、歩いて行ってしまった。


「かっこいい……!」


 何度も頭の中で先程のシーンがリピートされる。再生するたびに脳内映像はバラで埋め尽くされていく。


「たしか、ルカ会長、だったよね」

「名前知ってるの?」


 リーフがそう呟いたのに私が食い気味に尋ねる。


「うん、すっごく有名だよ。容姿端麗、頭も良ければ運動神経も抜群だって……」

「まさに完璧イケメンね……!」


 あんなイケメンが生徒会長なのに、全く知らなかったなんて、一生の不覚……!

 そう悔しげに去っていく生徒会一行を見つめる。


「もー、そんなにかっこいい?」


 エースが口を尖らせて私の顔を覗き込む。


「うん、少女漫画に出てくる手が届かない先輩って感じだよ、バラも見えたし」

「うーん、何がいいんだか……」


 エースはそっぽを向いて、呟く。

 そうか、イケメンどうしだからよく分からないのかな……なんか昔読んでた少女漫画読みたくなっちゃった。


「なー、早く行こーぜ!」


 エースが女子の屍の間を縫って(彼も生産しているが)進んでいく。私とリーフはぱたぱたと駆け足でエースを追いかける。





 ***




「ねえ、さっきすれ違った子たち、どこのクラスか分かる?」


 白を基調としたシックな部屋には腕章をつけた青年が2人座っていた。

 赤みがかった茶髪の青年――生徒会長であるルカは足を組んで微笑んでいる。


「いっぱいいたけど……あの廊下のど真ん中に突っ立ってた子?」


 そう呆れたように笑ったのは白髪の青年。

 彼は先程すれ違った黒髪の少女を思い出して、生徒名簿を手に取る。


「うん。それも面白いけれど……音が聞こえたんだ。鈴のような音が」

「……それって」


 白髪の青年は目を丸くしてルカを見ると、生徒名簿に視線を落としてからルカに手渡した。

 開かれた名簿には黒髪の毛先だけ紫色に染まっている少女の写真が貼られている。


「1年B組……シオン・アリシア」


 ルカは名簿をじっと見つめると、ふふっと笑い声をあげる。


「彼女は、僕と同じかもしれないね」

「さすがに、生徒の異能は重要機密だから書かれていないか……」


 白髪の青年も名簿を覗き込んで呟く。

 ルカは椅子からゆっくり立ち上がると、窓の方へ目を向けた。


「もしかしたら、彼女の異能は僕を助けてくれるかもしれない」





 ***




「はっくしゅん! うぅ……」


 手に持っているアイスティーがコップの中で揺れた。


「風邪?」

「もう寒くなってきたし、気をつけて」

「しっかり毛布かけて寝なきゃダメだろー!」


 リーフとアリスが心配そうにこちらに目を向け、スカイは謎のオカン力を発揮する。


「俺のと交換する? こっちの方があったかいけど」

「わ、間接キスじゃん、エースやるぅー!」


 エースが自然に飲みかけのカフェラテを差し出すと、リッカがそうからかうのでエースは手を引っ込めてしまう。


 ……それにしてもさっきの鈴の音はなんだったんだろう。


 リーフもエースも鈴なんて持っていないと言っていたし、あの黄色い声が響く中ではっきりと鈴の音が聞こえること自体がおかしいのかもしれない。


 気のせいだと思うことにしてもう一度ストローを加える。


「……やっぱ冷たい」


 私もあったかいのにすればよかったと思いながらみんなに目をやる。

 わいわいしている雰囲気がなんだか嬉しくて、私は思わず笑みが溢れた。


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