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12. ホリデーをかけて奮闘します

 電源を切られベッドに投げ捨てられたスマホ。

 机には……真っ白なノート。


 私は今勉強という分厚い壁に打ちひしがれている。

 明後日はテスト。これさえ終わってしまえば、あとは何かイベントがあって、すぐにウィンターホリデーだというのに……


「こんなにも分からないとは……」


 思い切りのけぞって、天井を仰ぐ。


『成績不振者はウィンターホリデーの1週間を補修に』


 以前、偶然先生同士が会話しているところへぼーっとしたままぶつかって聞こえてきた声。


 私の貴重な休み、奪わせてなるものか……!

 ――と燃えているものの、私の脳みそはその決意にはそぐってくれない。



 外国語は、かろうじてできる。バロン先生が好きなのもあるけれど、アリシア家はみんな異能者なので海外でも重宝される。そのため、周辺国の外国語はいくらか理解できるのだ。

 問題は、それ以外。


 特に数学。これだけは絶対に好きになれない。

 わかりやすいライム先生に教えてもらっているところはまあまあだけど……


「誰か数学得意な人助けて……」


 そう呟いてピンッと閃いた。

 そして私はすごい勢いでスマホの電源をつけた。





「……で、俺んとこ来た、と」


 そう呆れ顔で出迎えたのは私の頼れる友人エース。


「ここ男子寮ですけど……」

「頑張って許可を取ってきました」

「すごい切羽詰まってることだけはよく分かったわ」


 エースはやれやれと、部屋に上げてくれた。


「そーだ、シオンから連絡きた直後、リッカが急に来てさ……」


 エースがそう言ったのとほぼ同時にリッカが私に気がついて立ち上がる。


「一緒に勉強がんば……」

「リッカの得意科目は? それによっては返答を変える」

「圧やば……」


 リッカが言うのも遮り、私は真顔で尋ねる。

 私のホリデーがかかってるんだ。チャラ男に割いている時間などない!


「社会が一番かな。ね、俺エースよりふつーに頭いいよ」

「よろしくお願いいたします」


 華麗な頭下げスライディングをかまして私はリッカの向かい側へと座る。


「今日はいちだんと面白いね」


 クスクス笑うリッカなど目もくれず私は教科書と向かい合い臨戦体制をとる。




「だーかーらー! この応用はこの公式使うんだって!」


 エースが教科書をバシバシ叩いて叫ぶ。

 私は何を言われているのか分からなすぎてもうお花畑だ。


「シオンちゃんさ、このページよく読んでみて。そしたら分かるよ」


 2人に挟まれて、私はうんうん唸りながら勉強を進めていく。


 そして――


「できた!」

「お! やればできんじゃん!」

「社会の方も語呂合わせだけど、なんとかなるはずだよ」


 2人がわかりやすく教えてくれたおかげで、なんとかテスト範囲を理解し(たぶん)私は深々と頭を下げる。


 しかし……問題点はまだ消えていない。


 私はすぐさま立ち上がり、次の講師の元へと向かう。


「あ、シオン。いい点取れたらなんか奢れよ」


 にひっと笑って見送るエースに「そんなのでいいなら」と大きく頷いた。





「リーフ! なにとぞよろしくお願いします!」

「そんなかしこまらないでよー。スカイにも勉強教えてたし、みんなで頑張ろ!」


 なんて優しいんだ……そしてやはり頭のいいリーフには既に生徒がいたか……


 部屋に入ると、スカイが魂の抜けかかったような顔で問題を解いているところだった。


「スカイは異能基礎しかできなくて。もう苦手な文学とかはずっとあんな感じなの」


 リーフはクスッと笑って言う。リーフの得意科目が文学だと聞いてやってきたけれど……


「……異能基礎ができるんですか!?」


 誤算だった。まさか私の第二苦手科目の異能基礎をスカイができるなんて! 失礼だけど、スカイは私と同類、もしくはもっとできないと思ってたから、びっくりだ。



 ……しかしスカイの説明は全く理解できなかった。

 覚え方が独特すぎて参考にならないのだ。


 一方リーフは文学はもちろん、その他の教科まで完璧にこなしており、色々教えてくれた。


「リーフありがとう。とってもわかりやすかった!」

「いえいえー」


 リーフが照れくさそうに笑って、玄関先まで見送ってくれた。


「シオン……がんばろーな!」

「うん……互いにホリデーを守れることを願おう……!」


 そう私たちは互いを励まし合う。

 おばか同士心が通ったのを感じながら、私は次の講師の元へ向かう。





「アルト先輩ー!」

「さっそくやろうか」


 学園内で自習していたアルトを発見し、私が駆け寄るとすぐに異能史の教科書を開いてくれた。


「ホリデーのためにみんなのところを回っているんだね」

「はい……私は本当におばかなので……」


 アルトは「頑張ってるんだね」と褒めてくれる。思わず舞い上がりそうになりながらも、ノートと睨み合う。

 アルトにはいつも教えてもらっているおかげか、スムーズに理解することができる。


「本当に助かりました!」


 私はぺこりと頭を下げて、教室を出て行こうとする。

 すると、アルトがぼそっと呟く。


「もしよかったらだけれど……君のホリデーの1日を僕にくれないかな?」

「……え?」


 一瞬思考が停止して、それからまた勉強を教えてくれるのか! と納得した。


「期待に添えるように頑張りますね!」

「う、うん……?」


 私はぶんぶんと手を振って教室を後にした。

 心なしかアルト先輩の顔が赤かったような気がするけれど、疲れたのかな……?


「私がおばかすぎるせいか……」


 ため息まじりに呟いて私は最後の講師の元へ向かう。





 教室の扉を開けた瞬間、何かが爆発したような衝撃音が聞こえてきた。

 立ち込める煙の中から咳が聞こえて、人影が現れる。


「シオン、ごめんね。実験失敗しちゃって……」

「アリス! 大丈夫?」


 煙を手で払いながらアリスがよろよろと出てくる。

 私はアリスを支えると、机に散らばる実験器具と薬品に目をやる。

 異能科学は今回のテストで唯一筆記ではなく、実験を成功させることで合格となる。異能科学がずば抜けて得意なアリスですら失敗してしまうほど難しいのである。


「シオンに上手く教えたくて、張り切ってたら、調合ミスしちゃったよ……」

「誤差はいけないってことが分かった! 私のためにありがとね!」


 そう言うとアリスはぱっと笑顔になって、「一緒にやってみよう!」とすぐさま準備に取り掛かった。



「……なんとかできたね」

「うん……本番これをあのノーマン先生の前で完璧にこなせればオッケーだね」


 ぼろぼろになってようやく出来上がった薬品を目の前に私たちはテストのことを思い浮かべる。


 ……できる気がしない。

 あの一つもミスを許さないと言うような眼差しで見られたら間違いなくミスをする。


「私は嫌いなものを思い浮かべて、なんとかやり過ごそうと思うわ」

「嫌いなもの……?」


 私が尋ねると、アリスは宙を仰いでから、眉を潜める。


「炭酸ジュースを持ったお兄ちゃん想像したんだけど……ちょっと無理だった」


 炭酸嫌いなんだ、と意外に思いながらあんなに妹を愛してやまないレイを不憫に思う。


「芋思い浮かべるぐらいがちょうどいいんじゃないかな」

「……そうね」


 私たちは本番はノーマン先生に芋を投影することに決めた。芋すら美化されてしまう気はするけれど……




 そんなこんなで私はみんなに教えてもらったことを胸に、勉強を続けた。


 かかってきなさい、テスト……!




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