11. サプライズをしました
「シオンーー」
そう半ベソで泣きついてきたのはスカイ・サニーウェザー。いつも眩いばかりの笑顔を振りまいている彼がこんなしょんぼりしているのは珍しい。
「どうしたの?」
そう尋ねると、スカイは肩を落としたまま話始めた。
「リーフとケンカした!?」
目玉が飛び出る勢いで驚いて、部活中だと思い出して口を塞ぐ。
スカイによるとおそらくケンカした理由は、スカイが昨日リーフに頼まれていた花壇の水やりを忘れたかららしい。
「そんなことで怒らないと思うけどなぁ……」
だってリーフは圧倒的天使だから。そのくらいなら笑って許してしまいそうだ。それにリーフは植物を操る異能を持っているのだから、枯れてしまってもどうにかできるのでは……?
「でも……朝から急に素っ気なくなって……これくらいしか思い当たらないっていうか……」
「うーん……よっぽど大事な花だったのかも。後で見に行ってみようよ」
スカイがあまりにもしおらしくしているので見かねた私はそう提案し、部活の後向かうことになった。
「特に変わった様子は……ないね」
植物園にあるリーフがお世話している花壇を覗き込む。花は多少元気のなさが伺えるも、リーフが手入れしているのか、綺麗に咲いている。
「絶対これじゃないと思うよ、他に怒らせるようなことしてないの?」
スカイはふるふる首を横に振る。
あの温厚なリーフを怒らせたのだから、相当のことをしたのだろう。
「ここは女友達パワーで聞いてみるか……上手く聞き出してくるから、きちんと謝るんだよ!」
「シオンありがとうーー!」
コクコクとスカイは頷く。
スカイがあんなにとぼとぼ歩いてるの見たくないよー。
私の友達力(あるいは異能)でケンカの理由を聞き出してみせる!
「リーフ!」
寮に戻ってから、リーフの部屋へ向かい、扉をノックする。するとリーフがひょこっと顔を出した。
「シオン、どうしたのー?」
私は思い切って尋ねることにした。
「スカイとケンカしている理由を教えて!」
ほとんどお願いになってしまった私の質問にリーフは目を泳がせる。それから、部屋の奥にあるカレンダーに目をやる。9月30日に大きな花丸がつけられている。
「絶対スカイには言わないでほしいんだけど……」
リーフは私を部屋に招き入れると、説明をし始める。
「シオンー、なんか理由分かった?」
朝一番に、スカイに尋ねられ、私はギョッとする。
「なんも分からないなぁーー」
自分でも笑ってしまうくらい下手くそな嘘をついたけれど、スカイは気付く素振りもない。
今日の放課後まで頑張って耐えろ、シオン……!
そう言い聞かせて私はリーフとの計画を思い浮かべた。
そうして、1日が終わり、いよいよ実行の時。
私はリーフからスカイを呼ぶように頼まれていた。
「ちょっと、どこまで行くんだよー」
リーフ不足なのか既に限界値に達していそうなスカイはとぼとぼと私の後ろをついてくる。しばらくして私が足を止めたのは植物園の前。
不思議そうにしているスカイに私はいたずらっぽく笑う。
「開けてみて」
言われるがまま、スカイは植物園の入り口を開ける。
すると。
パン! とクラッカーの音が鳴り響いた。
リーフの異能で出迎えるように咲く花々。
「スカイー! お誕生日おめでとう!」
そう大きな声で言ったのはリーフ。エースやアリス、部活の先輩たちも周りでニコニコしている。
「え……そーいや俺今日誕生日だった!」
「忘れてたんだ」
スカイが思い出したように言うのにエースがツッコミを入れる。
「でも、俺リーフのこと怒らせちゃったままで……」
スカイがうなだれるのをみて光属性のスカイにはサプライズが通じていないことに気がついた。
「スカイはこうでもしないと、サプライズに気がついちゃいそうだから……ごめんね」
見かねたリーフが眉を下げる。
「じゃあ、リーフは怒ってない?」
リーフは笑いながら大きく首を縦に振る。それを見た途端スカイの顔はぱっと笑顔に変わった。
「じゃあ、改めてお誕生日おめでとう!」
今度こそスカイは弾けんばかりの笑顔を見せた。
「よかったね、上手くいって」
「シオンのおかげだよ。それにみんなにも急に参加してもらっちゃって……」
パーティが終わった後、嬉しそうなリーフに声をかけた。
あれからパーティはもうどんちゃん騒ぎだった。
アリスが急にも関わらず、お菓子(しかも高級)をたんまり用意してくれて、エースがいっぱい人を呼んでくれた。
本当、色々規格外の友人たちだ……
「でも、スカイかなりショック受けてたから、今度からは早めに言ってよー。協力なら大歓迎だから」
「まあスカイはリーフのこと大好きだからしょうがないよね」とからかうように言うと、リーフは少し照れたように赤くなる。
「で、リーフはスカイに何をプレゼントするつもりなのかなぁー?」
「な、内緒!」
「ええー、なんでーー」
そうちょっかいをかけながら、このカップルは永遠に推す、と決意したのだった。




