修羅場ルート?
犬村を仲間に加えた俺たちは逃げた化け猫の行方を追わず、残りの八犬士たちを探す事になった。と言うのも、姫がそう決めたからだ。
「あの化け猫が仮の人の姿をしている場合、気で見破る事はできない。
これから、どうやって探すが問題だ」
と言う俺の意見を姫は
「あれは猫なんでしょ。
犬は飼い主につく。でも、猫は家につく。
つまり、あの化け猫は妙椿の居場所にかかわらず、ここに帰って来る」
と一笑に伏した。
そして、
「でしょ? 佐助」
と姫に話を振られた佐助が姫の意見に賛同した事で、全ては姫の提案どおりになった。
他に犬塚、犬飼、犬村もいたが、彼らは姫の忠犬であって、姫の考えに異を唱える訳もない。
と言う事で、俺達は今、猿飼で兵の調練をしていた八犬士たち連れて、この地を去る事を報告するために、猿飼の館にやって来て、松姫と向き合っている。
「浜路姫様。承知いたしました。
これまで我が兵を訓練していただいた事、感謝いたしております」
と、姫に謝意を示したものの、その表情から少し不機嫌さが漂っている。
八犬士を連れていく事が本音の所では、気に入らないのかも知れない。
「ところで、緋村様」
そんなよそ事を考えている心を見透かされたのか、松姫は突然話を俺に振って来た。
「その緋村様の横におられる方はどなたでしょうか?」
「あ、ああ。
これは梓と申します」
話を真剣に聞いていなかった俺の注意を引き戻すため、話題を探したものの見つからず、梓の事を聞いて来たのだろう。
「どう言うご関係なのでしょうか?」
松姫の言葉に素早く反応したのは、梓だった。
俺の腕に纏わりつき、俺の代わりに答えた。
「私を守ってくれるんです」
「ですが、それでしたら、私も緋村様にお守りいただき、明地の下からこの地まで共に旅してまいりました。
ですよね? 緋村様」
「ええ。そうですね」
この二人は何を競い合っているのか?
全く意味が分からない。
「緋村様は私の大切な人なんです」
俺の腕に纏わりつく梓の腕に力がこもった。
ムニュッ感が幸せな気分にさせる。
「そうですか。
緋村様にとっても、その方は大切な方なんですか?
緋村様!」
なんだか、ちょっと語気が強い。松姫は負けず嫌いなのかもしれない。
とは言え、梓の事は守る必要がある。
「ええ。もちろん」
俺はきっぱり言った。
「それは仲間としてですか?
単なる知り合いとしてですか?
それとも女の子としてですか?」
ええっ?
どう答えていいのか悩んでいると、姫が笑いはじめた。
「ははははは。
いやあ、そうなんだぁ。
これは修羅場ルートだねぇ。
松姫、それはいずれ答えが出るでしょう」
また、姫が意味不明な事を言った。
「ともかく、私達は出発しますので」
俺にとっても助かる事なのだが、姫は少なくともこの話を打ち切る気らしい。
「お待ちください。
八犬士たちを揃えられたあと、明地様ともお会いになるのですか?」
「そうねぇ。会わないと話が進まないでしょうね」
「でしたら、私もお供します」
「えっ?」
姫も驚きの声を上げたが、それは俺もだ。
「明地様とは会って、私の知らぬところで進められた婚儀の話、真偽を確かめると共に、私自身の言葉でお返事をする必要があろうかと考えております」
「松姫様。でしたら、浜路姫様と共に旅をなされるより、直接陛下の下にうかがわればよろしいのでは?」
猿飼の重臣らしき男が言った。
もっともな事だ。
「そうはいきません。
浜路姫様、私もお供させていただいてよろしいでしょうか?」
「いやあ、歌、宇宙戦争と話題を出しましたからねぇ。
当然、残りのトライアングラーも出てきましたかぁ」
「すみません。浜路姫様。
意味が分からないのですが」
「松姫。かまいませんよ」
「ありがとうございます」
「ねっ、緋村、梓」
姫は最後をなぜだか、俺と梓に振って来て、にやついた笑みを俺に向けていた。