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犬村大角

 白い闇が薄らぎ始めると、立っている姫の影が浮かび上がり始めた。

 犬王の剣を鞘にしまい、佇む姫の視線の先には白煙と異臭を放つ水たまりがあった。


「姫様!」

「その液体には触れてはだめ」


 その言葉にみんな足を止めた。


「あれは?」


 犬塚が姫にたずねた。


「うーん。何か強酸性の液体か何か?」

「姫様、意味が分からないのですが」

「たぶんだけど、大猿勇多たちを襲ったのと同じ敵」

「でしたら、姫様。

 あの水のようなものを浴びていたら、姫様も」

「そうね。危なかったかも」

「あの闇の中で、よくかわせましたですね」

「下がってって声が聞こえたの。

 ううん、声と言うより絶叫?」

「誰のですか?

 私たちには聞こえませんでしたが」

「そう。でも、聞こえたの。

 誰だかは分からなかったけど」

「姫様、敵の姿は?」

「緋村。禍々しい気は感じたけど、視界を奪われていたから、姿まではね」

「佳奈」

「梓。ごめんね。逃げられちゃった」

「ううん。でも、確信が持てました。

 人でも妖に勝てるんだって」

「ありがとう。梓」


 そう姫が微笑んだ時、姫の犬王の剣の玉が光り始めた。浮かび上がっている文字は”礼”。


「あれ?」


 犬王の剣の鞘に目を向け、姫が言うと、八犬士たちがそれに続けた。


「そう言えば、さっきの霧が晴れてから、八犬士の気配を非常に近くに感じるようになりました」

「私もです。

 もしかすると、化け猫の妖力で八犬士の気配が封じられていたのかも知れません」


 八犬士たちがそう言った時だった。

 一人の男が声をかけて来た。


「あのう。何かあったんですか?

 地震かと思っていたら、真っ白な霧に包まれているし」


 犬王の剣の光る玉は犬王の剣の鞘から飛び出し、その男の額に向かって飛んで行った。


「わぉぉぉぉぉぉん!」


 その男は雄たけびを上げると、姫の前まで進み出て、跪いた。


「姫様、私、犬村大角と申します。

 姫のためであれば、他の全てを敵に回す覚悟にございます」

「ありがとう。

 君のためなら、世界中を敵に回しても構わないって言うセリフ聞けるなんて、幸せです。

 よろしくね」


 差し出した姫の手を犬村はとり、深々と頭を下げた。


「犬村さん、あなたはどんな特別な力を持っているの?」

「私は風を操る事ができます」

「例えば、風でかまいたちみたいにして敵を切ったりとかもできるんですか?」

「お望みであれば」


 犬村は立ち上がると、近くの木に向かって、手を水平に振り払った。

 俺はその手の先から、俺の一斬りの技と同じような揺らぎが放たれたのを見た。

 そして、その先にあった木は真っ二つに折れて、重たい音を立てて木は地面に崩れ落ちた。


「おぉぉぉ。すごいよ。

 犬村さん。頼りにします」

「姫様、ありがとうございます」

「うん」


 姫はそう言い終えると、俺に視線を向けた。


「緋村、見た?

 これ、あんたの一斬りの技と同じだね。

 佐助の術は化け猫が使えたけど、緋村の技は犬村さんが使えるみたい」

「ああ、そうですね」


 ちょっとムッとした気分だ。


「でも、緋村様。

 私は緋村様の方がすごいと思います。

 あの方たちは八犬士であって、元々人ではないものの力を宿しているのです。

 でも、緋村様は人間なのに、それと同じ力を持っているのですから」


 両手を胸の辺りで結び、目を輝かせながら、梓は俺に言った。

 なんだか、それがうれしくてしかたない、


「ありがとう。梓ちゃん」


 俺は梓の頭を思いっきり撫でた。

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