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伏見稲荷?

 俺たちは大輔と別れ大猿の領内に入り、その外れ裂土羅隠の麓まで来ていた。

 俺の目の前にそびえる裂土羅隠は木々に覆われた山と言うようなものではなく、巨大な岩山に草が生えている。そんな感じだ。

 そして、その高さは見上げるほど高い。


「あれは?」


 少し離れた場所に赤い小さな鳥居がある事に俺は気づいた。


「あれが裸婦照の入り口です」


 梓が言った。


「入り口?

 あそこを通ればいいの?」


 姫が梓に聞いた。


「八房の結界を破る必要があります」

「なるほど。だから、誰もたどり着けない訳ね。

 それに犬塚さんの気配が感じられないのも、結界の中に封じ込められているからなんだね。

 確かに八犬士を隠すには最適な場所かもね。

 で、どうやって破るの?」

「つ、つ、付いてきていただけますか?」

「梓ちゃん。結界を破るのは何か危険な事なのか?」


 少し怯えているように見える梓の事が気になった。


「い、い、いいえ。

 鳥居の近くに結界を破るための置物があります。

 妙椿の妖力が蓄えられていて、それを鳥居の下に置けば最初の鳥居の結界は破れます」

「最初の?」

「はい。

 あそこには結界が何重にも張られていて、その一つ一つに鳥居があるのです。

 奥の一本一本の鳥居にはすでに妙椿の妖力が何年にも渡って練り込まれたお札が貼られていて、結界は破られています。

 なので、最初の鳥居の結界さえ破れば、もう裸婦照は姿を現わします」

「と言う事は、最初に裸婦照に行こうとした時は、お札を貼ると現れる次の鳥居にまたお札を貼ってと言うのを繰り返し、全ての結界を破ったって事?」

「はい」

「大変だねぇ。

 まあ、行ってみますか」


 姫の言葉に従い、俺達はその鳥居の下まで歩んで行った。


「置物って、これ?」


 鳥居近くに転がっている不思議な置物を姫が指さしている。


「はい」

「これって、信楽焼のたぬき?」

「なんですか? それ」


 やはり姫は別の世界から来たと言う事なのか、しがらきやきってところの意味が分からないし、狸にしては滑稽な姿をしている。


「あ、気にしないで」


 姫はそう言いながら、転がっている置物を鳥居の下においた。

 その瞬間、目の前の光景が激しく歪んだかと思うと、無数の鳥居が現れた。


「まるで、伏見稲荷だねぇ」


 また、姫が意味不明な事を言っている。


「しかしあれだね。

 お稲荷さんの曲がりくねった鳥居の先には、犬嫌いの狐の神様がいるんだとか。

 私たち犬だから、ヤバいよね。

 ちょうど、私のセーラー服も"世界の○わりに柴犬と"のJKと同じ制服だし、目の周りマジックで塗って、みんなで狸に扮装しますか?」

「ど、ど、どうして、みんなで狸にならなくちゃいけないんですかぁぁ!」


 突然、梓が叫んだ。呼吸も荒く、なんだか取り乱している。


「緋村!」


 姫が俺にそう言って、目配せした。


「梓ちゃん。大丈夫。

 怖くないから。

 落ち着いて」


 姫の前ではあるが、この姫は私に興味は無いし、そもそも姫自身からの指示でもあるのだから遠慮する理由は無い。

 梓をぎゅっと抱きしめ、頭を撫でて落ち着かせる。


「ご、ご、ごめんなさい」

「大丈夫だ。

 梓ちゃんは何も心配する事はない」

「ありがとうございます」


 この場所で何か狸にまつわる嫌な出来事があったのかも知れない。そうは思っても、本人が言わない限り、聞く必要はない。そう自分を納得させた時だった。

 何か飛んでくるものが俺の視界をかすめた。

 視線を向けると、それは火のついた風車で、金属でできた柄の先は地面に突き刺さり、小さな書状のようなものが括りつけられている。


「何それ?

 風車の○七?」


 言ったのは姫だ。


「姫様、意味分かりませんが、これは風車と言うものです」

「お金さん、私はそんな事は分かってます」


 なんて、会話をしている内に、お金が風車の柄を掴んだ。


「うっ!」


 ちょっと顔を歪めながら、風車を地面から抜き取り、括りつけられていた書状を取り外した。


「熱かったんでしょ。

 そりゃあ、熱いわ。

 なんで、こんな訳の分からない事するのかなぁ」


 お金の様子を見ていた姫が嘲笑気味に言った。


「これは火車の弥八の連絡手段だからよっ!」


 嘲笑された事が気に障ったのか、お金の口調はきつかった。


「やっぱ火車にまでしないで、風車の弥八くらいにしとけばよかったのに。

 ま、それは置いておいて、そこにはなんて書いてあるの?」


 火車には関心は無いが、そこには俺も興味があった。

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