ホーエ○ハイムしていた姫
「私、牢に入れられて暇で時間がたっぷりあったから、ホーエ○ハイムしてたの。
あ、ごめん。分かんないよね。
私の体の中にいる人に話しかけてたの。
いるような気はしてたんだ。
なぜだか、緋村の行動に時々、ドキッとしたり、胸がチクッと傷んだりしてたので。
確かに緋村はイケメンなんだけど、それだけでそんな風になるのは変だしね。
そしたら、ようやくその人と会話ができるようになったの。
その人こそ、この体の本当の持ち主、浜路姫」
俺の事にときめいた。それは変?
はっきり言って、何を言っているのか、よく分からない。
「浜路姫とはそんな仲だったんだね。
いやあ、姫様に手を出すとは、とんだ護衛だね。
きっと、そんなところも天井裏に潜む変態佐助に見られてたと思うんだけど。
ま、それは置いておいて。
浜路姫は今でも、緋村の事が好きみたいなんだけど、今、この体は私んだから、手を出そうとしたら、殺すよ!」
最後の「殺すよ」には、気迫が籠っている。これは本気だ。
「で、そもそもどうしてこんな事になったのかなんだけど、浜路姫に暗示をかけた奴がいるのよ。
枕元に浜路姫の母親が立つんだけど、実は私もそれ見たんだ。私は浜路姫の母親だとは知らなかったんだけどね。
で、その母親が犬王の力は使うな。緋村にも物の怪として恐れられてしまうって言うのよ。
毎晩、毎晩、そう言われている内に、浜路姫はあんたに嫌われたくないと言う想いと、姫として犬王の力を使わなければと言う葛藤に苛まれ、ちょっとおかしくなったみたい。
まあ、私から言わせれば、逃げたんだね。
逃げるは恥だが役に立つ場合もあるだろうけど、これは失敗だよ。
ありのままの自分を見せて、好きだってぶつからなきゃ。
だから、私は本物の浜路姫には一度逃げたあなたは緋村を手にする資格は無いって言ったの」
「はぁ。つまり、もう私に姫様の事は諦めろと言うお話を回りくどくされている?
と言う事でよいでしょうか?」
「だからぁ。
本当の事を言ってるの。
何度か八房とも話しているのを聞いたでしょ。
私の世界って言葉。私は別の世界から来たの。
この世界の本物の浜路姫ではこの世界を救えないと考えた八房が、犬王の力や八犬士を使える素質を持っている私を探し出して、私を罠に嵌めて、ここに連れて来たの。
あいつ、私の世界では室内犬を仮の姿にしていたのかな? アニメとかコミックとか詳しそうだし。
ま、それはどうでもいいんだけど」
「としますと、今回のお話は?」
「まずは何者かが、浜路姫の犬王の力を封印したがっていた。
その何者かは夜な夜な浜路姫の枕元に立ったくらいだから、身近なところに敵がいる。
これ大事。
ここからは個人的な話になるんだけど、私は緋村が知っている緋村の事を好きだった浜路姫じゃない。
今まで、私に緋村はそんな素振り見せなかったけど、もしそんな事しようとしたら、殺すからねって事。
そして、私は別の世界から、この世界に麒麟を呼ぶために来たの」
「麒麟?」
「失礼。平和な世をつくるために来たの。そしてそれが実現した時、私はこの体を元の浜路姫に返す事になると思うんだけど、そうなると、再びこの浜路姫は緋村の事を求めるかも知れない。その時、緋村は誰を選ぶのか、ちゃんと決めてなさいよって事。ちなみに、私は浜路姫にその資格はないって思ってるんだけどね。
分かった?」
「今の姫様には手を出すな。
姫様の言動がおかしくても、違う世界から来たんだから、仕方ないだろ。
いつか、私の事を好きな姫様が戻って来るかも知れないけど、姫様を選ぶな。
って事ですかね?」
「個人的なところはね。
大事なのは敵は身近にもいるかもって事なんだけどなぁ。
この話は全て秘密だからね。
じゃあ、私は部屋に戻って寝るから」
そう言い終えると、姫はさっさと俺を残して、部屋から出て行った。
姫が語った話を完全に消化できてはいないが、今の姫が俺に気が無いと言うのはここで語った事だけでなく、その去り際の迷いの無さからも明白だった。