世界の○わりに柴犬と風な
「浜路姫よ。
呼び出すのが速すぎじゃ。
現れぬつもりであったが、生死にかかわると言うから、やって来たのじゃが、どう生死にかかわるのじゃ?」
「伏姫よ。
この者は清潔すぎる国におったから、今の状況が耐えられぬのであろう」
「さすが、八房ね。
私をここに連れて来たんだから、責任取ってよね」
「で、私にどうせよと」
「待て、八房。
ここは申世界、しかも予期せぬ者を姫は伴っておるぞ」
「ああ、伏姫さん、そんな事は気にしないで」
姫はそう言うが、三猿の若君なんて、八房や伏姫の感覚から行けば、敵にちがいあるまい。
「まあ、そこは全て浜路姫に任そうではないか。
して、望みを申せ」
「ここのみんなをお風呂上がりの状態にして、服も洗濯したてにして!
そうねぇ。私の服はセーラー服にしてくれたらうれしいかな?」
「言っている意味も分からぬが、願いはそもそも一つじゃ」
「伏姫、まあよいではないか。
私はセーラー服好きだし。
どんなのがよい?
北○治風か?
神○高校風か?」
「そうねぇ。
○に代わって、お仕置きよぅ! 風なのもありかな。
でも、八犬士たちを束ねる私なんだから、世界の○わりに芝犬とって感じはどうかな?
分かる?」
「分かるぞ。
我らは柴犬ではないが、いいかも知れぬのう」
「しかし、八房、あんた私の世界で何やってたのよ?
まあ、それはおいておいて。
スカート丈は松本先生に怒られないくらいで。
あと、車輪の大きなキャリーケースも欲しいかな。そこに着替えの下着も詰めてくれないかな」
「承知した」
八房がそう言い終えた時、俺達は元の場所に立っていた。
はずなのだが、妙な違和感が俺を包み込む。
それは俺だけではない。みな自分の手足や着物を眺め、その臭いを嗅いで驚きの表情を浮かべている。
そんな中、嬉しそうな表情を浮かべているのは姫だ。
見た事も無い服装で、すらりとした足を出している。
しかも、その足はさっきまでとは打って変わって、きれいな肌だ。
顔もきれいになっている。
「なんだか、花の香りが着物からするのですが」
「でしょう。
みんな綺麗になってよかったね」
「は、はあ。なんだか、落ち着きません」
大輔の言葉と俺も同感だ。
「それはそうと、姫様、そのお姿は?
異国の服ですか?
そう言えば、私の世界って何の事でしょうか?」
「犬飼さん、そこ気にしなくていいから。
これはセーラー服。似合う?」
「足が出過ぎでしょ」
俺が割って入った。そうだ。足を見せすぎだ。
「もしかして、足好きなの?
ムラムラしちゃう?
でもだめだからね」
けらけらと明るい姫に戸惑っていると、俺の背後に隠れていた梓が俺の横に並んだ。
まだ、恐怖が抜け切れていないのか、俺の服の腰辺りをぎゅっと握りしめたままだ。
その梓に目を向けると、髪は光を反射し黒く輝いている。そして、俺の服を掴む手もきれいな肌色。そして、梓からもほのかに花の香りが漂って来る。
「姫様、こんなにきれいにしていただいて、ありがとうございます」
違和感があったが、梓を見ていると俺も感謝したくなる。
「いいのよ。
みんなできれいな方がいいでしょ?」
「はい」
「おっ。梓ちゃん、何か雰囲気変わった?」
「そうですか?」
姫の視線は俺の服を握りしめる梓の手に向かった。
そして、にんまりと微笑んだ。
「緋村、そう言うことなんだぁ。
それはなにより。梓ちゃんの事、頼んだよ」
その言葉ははっきり言って、俺の事は眼中になしと言う事だ。
「ああ」
俺のその言葉にも、姫は微笑んでいる。
「ところで、佐助や犬塚さんはどうなっているの?」
ようやく、そこに来ましたか。この浮かれ姫!
なんだか、俺としてはそんな気分だった。