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姫様の居場所

 隣接する岩猿家と大猿の領地の境近くに建つ古びた寺院の一室で待っていた大輔に、姫様の書状を差し出した。

 大輔も一瞬小首を傾げるような素振りを見せはしたものの、その感想を口にするのは姫に失礼と考えたのか、平然と書状を俺に返して来た。


「この書状は本物と言う事でよろしいか?」

「ああ。ほぼ本物だ。

 これを姫に書かせに行って、勇多が戻って来るまで、そう時間を要さなかった事から言って、姫様はあの館のどこか、あるいは近くにいるに違いない」

「しかし、この書状はそれ以前に書かれていたものと言う可能性は?」

「八犬士が必要だと言う事を姫様ご自身の手で書いてもらいたいと言った通りの内容が、ここに書かれている事から言って、あの時書いてもらったものと考えていいはずだ」

「なるほど。

 では、姫様のさらに詳しい居場所を突き止める必要がありますな」

「あのう、少しよろしいでしょうか。

 私、思う事があるんですけど」


 梓が口を挟んできた。積極的に自分の意見を言おうとしている。それがやはりうれしい。


「梓ちゃん。何かな?」

「姫様は主野又にいるんじゃないですか?」

「なんで?」

「どうして?」


 俺も大輔も少し驚き気味な声を上げて、梓を見た。


「だって、姫様ご自身がそう書いておられますよね?」

「どこに?」


 俺の問いに、梓が姫の書状を指さした。


「えっ?」


 姫からの書状を開いて、床の上に置き、大輔と二人で眺める。


「あっ!

 本当だ。主野又だ」


 大輔が声を上げた。どうやら、大輔は梓の言っている事に気づいたらしい。


「ほら、ここですよ!」


 そう言って、大輔が文章の頭の文字を指さしながら、読み上げた。


「わ・た・し・が・い・る・の・は・す・の・ま・た」

「おお。そう言うことだったのか?

 なら、これは」


 俺は懐に入れてあった、最初の姫からの書状を開いて床に置くと、文章の頭の文字を読んで行った。


「ゆ・だ・に・は・め・ら・れ・た。

 そう言う事だったのか。

 変な文章だとは思っていたのだが。

 梓ちゃん。お手柄だ!」


 これは紛れもない本心だ。

 その言葉に梓がうれしいそうな笑顔を浮かべた。


「だとしたら、どうして、そんなにすぐにこの書状が緋村様の所に届けられたんでしょうか?」

「心当たりがある。

 姫様に見える風景について書いてもらいたいと言ったら、大猿に拒否された。

 いくつかの書状を予め姫様に書かせていて、私の要望に合うものがあればそれを持ってきた。そう言うことだろう。

 しかし、主野又だとして、主野又のどこかだが」

「それはおそらく、関所の砦のどこかではないでしょうか?

 あそこは私の兵たちも詰めていますので、探ってみましょう」

「お願いします。

 あとは犬塚さんの居場所だな。

 佐助はどうでもいいし、八犬士たちならば、ある程度の場所は分かるかも知れないな」


 俺がそう言い終えた時、突如として背後に人の気配がした。


「それはひどい言い方だ!」


 背後から聞こえて来たそれは聞き覚えのある声だった。

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