表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/156

姫様からの書状

 俺は今、大猿の館の広間に梓と共に座っている。

 使いに出した梓が戻って来たとあって、大猿の館の門番たちもすんなりと俺たちを中に通してくれた。

 目の前の奥の一段高い所に、不機嫌そうな顔で座っているのが、この家の当主 大猿勇多だ。


「八犬士を揃えて、浜路姫様を迎えに来るようにと伝えたはずだが?」


 勇多の恫喝気味の口調に、隣に座る梓の体は縮こまっている。

 大丈夫だ。

 そう励ましたくて、ちらりと視線を向ける。

 それに気づいた梓が俺を見はしたものの、勇多の恫喝の方が怖いのか、すぐに視線を床に落とした。


「勝手な事ばかり、申されるなぁ」

「なんだと」


 ここで戦えば勇多など、一瞬にして、その首を胴体から切り離してみせる。

 だが、それでは姫に危害が及んでしまう。


「それはそうでございましょう」


 怒りはぐっと腹の奥に押し込めて、語り掛ける。


「姫様が無事な事を確かめずに八犬士を連れてくる訳には行きませんからなあ」

「ふむ。

 その言葉、裏返せば、姫様の無事が確認できれば、八犬士たちを連れてくると言う事でよいな?」

「ああ」

「ところで、そなたあの高名な一斬り将軍 緋村ときいておる。

 先帝の仇を共に討ち、姫様を帝位に就けぬか?」

「その話、姫様にも申し上げたのか?」

「もちろんじゃ」

「で、姫様はなんと?」

「分かり切った事。

 そのために八犬士が必要なのではないか」

「では、その姫様はなぜこの場におらぬ?」

「ふむ。まあ、姫様にも色々とご事情がおありなんじゃろう。

 おお。そうじゃ、姫様にそなた宛ての書状でも書いてもらおう。

 なんでもよいかの?」

「そうですね。

 見える風景など、おたずねしたいが」

「それはいかがなものか。

 他には無いのか?

 無ければ、自由に書いてもらうが」

「ならば、八犬士が必要だと言う事を姫様ご自身の手で書状にしたためてもらいたい」

「分かった。 

 その旨、姫様にお伝えしよう。

 しばし、待たれよ」


 そう言い残すと、勇多は席を立ち、部屋を出て行った。

  広間には俺と梓だけになった。


「梓ちゃん、大丈夫か?」

「はい」


 小さめの声ではあるが、ちゃんと自分の言葉で答えた。


「安心しろ。

 俺が付いている」

「ありがとうございます。

 私も緋村様を守りたいです」

「そうだな。梓ちゃんに守ってもらうのも悪くないかもな」

「本当ですか?」

「ああ」


 梓の満面の笑み。輝く笑顔とはこの事だろうか。そう思ってしまうほど、俺の心が温かくなる。


「しばしと勇多が言った所を見ると、姫様は近くにいそうだな」

「そうだといいですね」


 梓は笑顔のまま言った。


 そして、間もなく勇多は姫様に書いてもらったものだと言って、一通の書状を持ってきた。

  

 

私の親愛なる緋村殿

頼みごとは進みましたか?

申世界は今は貧しい土地です。

が、水さえあれば蘇るのです。

今、私が考えているのは川を造る事です。

流刑地のごとく厳しいこの地の

野を緑で溢れる地に変えるのです。

はっきり言って、容易な事ではありません。

進んで取り組もうとしていますが、私の

能力を超えているのは確かです。

誠に申し訳ないですが、八犬士の力が必要です。

頼みましたよ。


なんじゃこりゃあ!

先の書状と同様、それが目を通した最初の感想だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ