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ありのままの自分

「梓ちゃんは姫様に人気がある事が、気になるのかい?」


 集落を離れて、この国の若君 大輔が兵を調練していると聞いた場所に向かう途中、梓にたずねた。


「はい。羨ましいです」


 妬ましい。そんな負の気持ちでなく、羨ましいと言う言葉で表現した。


「大勢の人に好かれたいか?」

「はい」

「確かにな。

 大勢に好かれるのにこした事は無い。

 が、それはなかなか難しい事だ。

 俺は大勢に好かれる事が大事だとは思わない」

「えっ?

 そうなんですか?」


 正直、梓にとって、その言葉は意外だったんだろう。驚いた顔で俺を見ている。


「ああ。

 たぶんだが、あの姫様はそんな事、思っちゃあいない」

「そうなんですか?

 あんなにみんなに好かれているのにですか?」

「ああ。ただ、他人の事を想う優しさが、人を惹きつけるんだろうな。

 まあ、それは人の持ち味ってもんだろう。

 俺には無理だな。無理して、姫様のまねごとをする気は無い。

 俺はありのままの自分でいいと思う」

「ありのままですか?」

「ああ。

 梓ちゃんも梓ちゃんのままでいいんだ」

「できそこないでもですか?」

「前にもそんな事を言っていたが、誰がそんな事を君に言ったんだ?

 そいつは神様か何かか?

 違うだろ?

 そいつもただの人間だ。俺から言わせれば、そんな事を言う奴こそ、人としてのできそこないだ。

 君は、梓ちゃんは、できそこないなんかじゃない。

 かわいい、優しい、いい子だ」

「わ、私がですか?

 本当にですか?」


 そう言い終えた時には、梓の瞳から、涙がこぼれた。


「大丈夫。

 安心しろ」


 そう言って、梓を落ち着かせようと抱きしめた。


「みんなに好きになってもらおうなんて無理しなくていい。

 梓ちゃんは梓ちゃんのままでいいんだ。

 そして、自分が大事だと思う人に、大事な人と思われれば最高だと思わないか?」

「大事な人にですか?」

「ああ。

 梓ちゃんにも大事な人はいるんだろう?」

「わ、わ、私。

 緋村様の事が大事ですっ!」


 一瞬、俺の思考回路が混乱した。

 この大事とはどう言う意味だ?

 大切な保護者?

 大切な家族みたいなもの?

 まさか、好きな人?


「俺も梓ちゃんの事は大事だ」


 思考回路は混乱したままだが、俺の口からそんな言葉が飛び出した。

 この気持ちに偽りはない。そう、思考回路を介さなかっただけに、なおさら真実の気持ちである。


「うれしいです。

 今の気持ちを幸せな気持ちって言うんですよね?」


 梓は俺の背中に両腕を回し、俺を上目遣いで見ている。

 そのかわいい笑顔の瞳には涙が浮かんでいる。

 この子の事は気になるし、ほっておけない。

 だが、それは女の子として好きと言う感情なのか?

 まだ自分でも自信がない。


「ですよね?」

「ああ」


 梓の押しに負け、俺はそう言いながら、梓をぎゅっと抱きしめた。

 姫様、ごめん。

 と言うか、ここのところ、俺の事をただの護衛にしか扱わない姫さんが悪いんだ!

 そう自分の気持ちと行動を正当化しようとする自分の存在に俺は気づいた。

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