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逆夜這い

 俺は猿飼の館の一室で眠れぬ夜を過ごしている。

 まず確かめなければならないのは、姫様の無事と居場所である。

 一緒に行動していたはずの佐助からの連絡も無い事から、佐助も捕らえられている可能性が高い。

 その事を伊香の里に伝える使者を松さんに頼んで出してもらった。伊香の里は我らに味方するつもりはないと言ってはいたが、佐助が行方不明となれば、佐助の居場所を探索するのは確実である。

 おそらく人質は別々の場所に捕らえられているだろうが、伊香の者たちが佐助を探しだそうとする際、姫の居所も掴むに違いない。

 それまで待つか。

 いや、それでは遅すぎる。


「さて、俺達はどうしたものか」


 天井の闇を見つめながらつぶやいた時、廊下に人の気配を感じた。

 月明りが障子の紙に映し出すその影は小さく、女であることを示している。

 特に殺気や敵意を纏ってはいない。

 こんな夜更けにどこに?

 なんて思っていると、その影は俺の部屋の前で立ち止まり、障子を静かに開けた。

 逆光だけに、顔を視認する事はできまい。そう考えた俺はとりあえず、寝たふりで様子を見る事にした。


 その女は部屋に入って来ると開けた障子を再び閉めた。

 そして、ゆっくりと近づいて来たかと思うと、俺の布団の横にしゃがみ、着布団の裾を少し持ち上げ、俺の布団の中に入って来た。

 俺の横に添い寝し、腕を回して抱きついて来た。

 柔らかく膨らんだ胸の感触が、俺の本能をくすぐる。

 姫には胸無かったなぁ。なんて、思いだす。

 いや、その前に、これが誰なのか確かめなければならない。


「ちょ、ちょっと待て」


 そう言って、絡んできていた細い腕を振りほどき、その顔を確かめる。

 そんな気はしていたが、そこにいたのはやはり梓だった。


「私じゃあ、嫌?」


 か細い声。視線は相変わらず、合わせようとはしない。


「いや、そう言う事じゃなくて、なんで君がこんな事をするんだ?」

「私」


 そこで、言葉が一度詰まった。黙って、その続きを待つ。


「八犬士たちを連れてくるように命じられているんです。

 そのためでしたら、私」

「ようは私に八犬士たちを探し出させるために、体を差し出すと言う事か?」


 梓は小さく頷いた。


「そんな事しなくてもいい。

 俺は君が言う通り八犬士たちを探し出す」

「ほ、ほ、本当にですか?」

「ああ」

「私の体を差し出さなくてもですか?」

「ああ」


 と、俺の理性が答えさせはしたものの、惜しい気がしない訳でもない。


「うれしいです」


 この子はよく分からない子だが、悪い子ではない。そう感じた。


「戻って、寝なさい」

「私、こんな優しい言葉をかけてもらったのは初めてなんです。

 一緒に横で寝させていただけませんでしょうか?」

「えっ?」


 それは拷問である。

 梓ははっきり言って、可愛い部類に入る。そんな子が同じ布団で寝て、柔らかい胸が当たってきたりすれば、沸き起こる衝動を抑える事は拷問並みに耐えなければならない苦痛でしかない。

 しかし、心に傷がありそうなこの子を放り出すのもどうかと考えると、自分の精神力の鍛錬。そう決心して、受け入れるしかなかった。


「ああ、かまわない」

「うれしいです」


 そう言って、梓は再び俺をぎゅっと抱きしめてきた。

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