四公筆頭 大猿勇多
申世界、大猿家の御殿。
その広間の一段高い奥に座っているのは、四公筆頭 大猿家当主 大猿勇多。その前の一段低い場所に座っている三人は、三猿、岩猿、輝猿家の当主たち。
「ふむ。この国を亡ぼすのではと恐れられたあの流行病を、甲斐族の姫が伝説の力で治したと申すのだな」
「はい。いかにも。
大輔自身がその力、確かめております。
しかも、浜路姫は我らに敵意無く、それどころか我らのために、この地に川を造ると申しておるよしに」
「川をのう。
この地に川があれば、どれだけ国が潤うことか。
しかし、浜路姫は自然をそこまで改変してしまう力を持つと言うのか。妙椿もあの利馬主真雲天を造ったと言うが、さすが妙椿を破った力じゃのう。
して、そちたちはどうしようと言うのじゃ?」
「は。川をつくらせとうございます」
「お三方とも?」
「はっ」
三人が頭を下げた。
「ふむ。
お三方がそうお考えなのじゃ。
我が止める理由はあるまい。
じゃが、我も直接話も聞かせてもらおうと思うが、よいか?」
「御心のままに」
「うむ。
ならば、浜路姫をここに連れて参るよう大輔に命じておけ」
「ははっ。
では、我らはこれにて」
そう言い、一度頭を下げると、三人は退出していった。
「くっくっくっ。
わははははははは」
誰もいなくなった広間に勇多の笑い声が響いた。
「誰かある!」
「ははっ」
勇多の呼びかけに、家臣の一人が広間に入って来て、勇多の前にひれ伏した。
「我は妙椿をもしのぐ浜路姫の力を今度こそ手に入れるぞ。
これにて、我らは妙椿の呪縛から解放される。
ここに到着するまで、浜路姫の一行に無礼があってはならぬ。
者どもに注意するよう、命じておけ」
「ははっ」
「あ、それと、あのできそこないにも子細を伝えておけ。
敵に回す訳にはいかぬからのぅ」
「ははっ」
男はそう言い残して、勇多の前から姿を消した。
「くっくっくっ。
わははははははは」
誰もいなくなった広間に勇多の笑い声が再び大きく響いた。