謀反直前
諸国漫遊とまではいかずとも、町に出ているとは聞いていた。
助さん格さんくらいのお供と出歩き、世直しをしているのなら評判も良くなるだろうけど、大勢で町を練り歩き、困窮している町の人に暴言を吐くようでは評判が悪くなってしまう。
「町のみんなはあの男が陛下だって知ってるの?」
「もちろん」
「反感持たれてしまうよぅ。
これでは革命起きちゃうよ。ギロチンだよぅ。
私までギロチンにかけられたらどうしよう」
「ぎろちん?」
「あ、そこはいいから。
なんとかしないと」
「もう遅いですよ。
敵は本王寺にあり! ですからね」
「それって、謀反が起きるって事?」
「姫様もすでにご存じなんですよね?」
佐助が言った「姫様がそのような情報をお持ちだったとは」とはその事だったのか。私は洒落で言っただけだったんだけど、マジでヤバい。
「では、本王寺に行きましょうか」
「ない、ない。それはないでしょ。
だって、明智が襲って来るんでしょ?
なんで、そんな危ないところに行かなきゃいけないのよ。
て言うか、佐助、謀反が起きるんなら、陛下には言ったんだよね?」
「いえ。言っていません。
私はこの国家に雇われている訳で、陛下に雇われていると言う訳ではありませんから。
それに陛下が治めるこの国が、人々のためになっていると思いますか?」
「うっ。
返す言葉が無い」
「では、行きますよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。
あんた、私も謀反の巻き添えに遭わせて、殺そうって考えじゃないよね?」
「私のお役目はあなたをお守りする事ですから、それはありません。
それにあなた様こそ伝説の犬王様ですから」
「拳王?
いやあ、私は違うよ。
好きな女を力づくで奪おうなんてしないから」
「好きな女がいるんですか?
姫様って胸無いですけど、実は男だったんですか?」
「そんな訳ないでしょ。
って、言うか、なんで胸の事知ってるのよ」
「いつも見守っていますから」
「って、あんたヤバ過ぎるよ。ストーカーレベルだよ。
天井裏に潜むこと禁止!」
「天井裏が禁止となりますと、厠のような狭い所では姫様と身を寄せながらご一緒すればよろしいので?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。
あんた、厠でも天井裏から私を見てたの?」
「もちろん。任務ですから」
「そんな任務いらないから!
私の事盗み見るの禁止!
分かったわね!」
佐助が今までしてきた行動は、横暴な陛下の行動に対する幻滅感も、謀反に対する危機感も吹き飛ばすほどの衝撃だった。