さあ、蔵を見るかい?
大輔が私たちにこの申世界の食糧事情を知ってもらうため、見せようとしている食料を保管していると言う蔵。そこに向かっていた私は初めて、この国の兵らしき人物の姿を見た。
何人かの兵たちが武器を手にどこかにつながる道を塞ぐように張られた縄の前に立っている。
キープアウト。そんな感じだ。
「あれは何をしているんですか?」
「うーん、何でしょうか?」
「あそこから先には何があるんですか?」
そう言いながら、首を伸ばしてみても、その道の先に荒れ果てた畑以外見えない。
「畑が荒れてますよね?
雨が必要ですか?」
「いや、そんな事はないはずです。
先を急ぎましょう。
さあ、蔵です、蔵ですよ」
大輔にそう急かされて、先に進んで行く。
やがて、私たちは家屋が立ち並ぶ小さな集落にたどり着いた。
人通りもない集落の中を進んで行くと、少し先の辻から痩せこけた中年男性が姿を現わした。
足取りはおぼつかなく、ふらついている。
「大輔さん、あれは酔っ払いですか?」
「まあ、そうかも知れませんね」
その言葉に少し疑問を抱きながら進んでいると、その男を追うかのように二人の兵らしき男たちが辻から現れた。
「戻れ、戻れ!」
兵たちは手にした長い棒の先で、ふらつく男の体を押しながら、元来た道に押し戻そうとしている。
「犬塚さん」
私の言葉に応え、男を助けに飛び出そうとした犬塚の前に大輔が回り込み、広げた両手で犬塚の前に立ちはだかった。
「そこをどいてください」
「今ここで、兵たちといざこざを起こすと厄介な事になります。
甲斐族の侍が猿族の兵ともめ事を起こす。それはそのまま甲斐族と猿族の争いになりかねません」
「うーん。確かにね。
でも、何かしてあげられないかなあ?」
「ここは見守るしかないのでは?」
大輔の言葉を否定するだけの材料が無い私はただ虚しく、その先で行われている光景を眺めているしかなかった。
長い棒で押されるがまま、ふらついた男は元来た辻を曲がり姿を消すと、私はその先で何が行われているのかを確かめたくて男と兵たちが姿を消した辻に向かった。
その先には道に倒れ込んださっきの男を長い棒の先で、叩いている兵たちの姿があった。
「待って!」
私はそう言いながら、倒れている男の下に向かって駆けだした。
「お前は何だ?」
そう怒鳴り、私の進路を塞ごうとしている二人の兵たちの間をかいくぐり、倒れている男の下に駆け寄った。
「はあ、はあ」
しゃがんで抱き起した男の息は粗く、体が熱っぽい。
「この人、病気じゃない!」
「お前、この男に触ったな。
お前も外に出す訳にはいかん」
一人の兵がそう言うと私も突こうと、手にしていた長い棒を振りかざした。
「お待ちください!」
大輔が兵の下に駆け寄ると、その棒を掴んで兵の動きを止めた。
「あ、あ、あなた様は」
「ああ、あなたもご存知でしたか。
私は近くで商家を営んでいる者の息子です」
大輔の言葉に兵たちは私たちから、数歩ほど離れた場所に引き下がった。
「この方たちは?」
「私の大事な客人です」
「しかし、今、この方はこの男に触れました。
このまま、外に出す訳には」
その言葉に、私は視線を道の先に向けた。
そこにはさっき見たのと同じように道を封鎖するように張られた縄とその前に立つ兵の姿があった。
「触れたからと言って、必ずうつる訳ではありませんでしょう」
大輔はそう言うと、しゃがんでいる私の手を取り、私を立ち上がらせると倒れている男から離れ始めた。
「でも、このままでは」
「ここはそのままで。
この集落の蔵はすぐそこです。
さあ、蔵を見るかい?」
大輔は私にそう言った。