目指すは申世界の終着地ラ○テル
化け猫が去り、妖術でつくられていた霧も晴れた利馬主真雲天を再び進み、ようやく頂上にたどり着いた。
左右にそびえたつ裂土羅隠の岩山が視界を邪魔して、申世界を一望することはできない。
裂土羅隠の上に立つ監視台にでも行かない限り無理そうだ。
目の前に限られた視界に映る灰色の申世界。
「申世界は魅力のある地じゃないんだよね?」
「そううかがっています」
「確かに緑が少なそうね。
ともかく。ここからは下りだし、急ぎますか」
そう言って、足を速めて主野又の地を目指すと、徐々にその先に関所らしきものが見え始めて来た。
「向こうには無かったけど、こっちにはあるんだね」
「申世界は甲斐族たちに攻め込まれる事を警戒していますからね」
「なるほどねぇ。
新世界だったら、四皇がいて、そこら中の海賊たちより強いんだけどね」
「りなさん、また話が見えないんですけど」
「それは気にしないで。
それより、警戒されているのに、私たちは通してくれるのかな?
何か通るのに、必要な書状とかあったりしたのかな?」
「いえ。特には不要ですし、通してくれると思いますよ」
「ここで、帰れって言われたら、死んじゃうよぅ」
来た道を振り返りながら、私は言った。
そして、徐々に関所の姿が明らかになってきた。
太い木で造られた小さな砦。そんな風で、砦の壁の向こうは見えないようになっていて、警備の兵たちがどれだけ配置されているのか、掴むこともできない。
ただ、砦の正面の門の上には兵たちが並べる場所が設けられていて、そこに二十名ほどの弓を携えた兵たちが並んでいる。
「止まれ!」
私たちが門の手前50mほどまで近づいた時、門の上の兵たちが私たちに弓を向けながら言った。
私は猿族と言う者を初めて見た。髪の色が違うとか、肌の色が違うとか言うこともなく、私が転生した甲斐族の者と違うところは見つけられない。
「お前たちは甲斐族の者たちであろう。
何の目的で、猿族の地に入ろうとしている?」
「観光?」
ちょっと小首を傾げながら答えてみた。
「なんだと?
もう一度言ってみろ」
どうやら、観光と言う言葉は無いらしい。どう答えるか悩んでいると、佐助が答えた。
「猿族も甲斐族も同じ国の者同士、どうして通行の邪魔をするのか?」
「ううーむ。確かに。
扉を開けよ!」
佐助の言葉に納得したらしく、私としては拍子抜けである。
ともかく、目の前の扉は開き、私たちを申世界へと導いた。
門をくぐった先は視界が開けていた。小さな火山の火口跡なんてものではなく、かなり広大な地にみえる。そして、そのほとんどが灰色の土地。まばらに人々が暮らす家らしきものがあるけど、土で出来た壁と藁のようなもので出来た屋根を持つ小さなものに見える。
「では、行きますかな、○さん、格さん」
時代劇風なセリフを言って、関所を越え始めた時だった。
「ならぬと言っておるであろう。
帰れ、帰れ!」
背後で怒鳴り声が聞こえた。振り返ると、一人の若い男が関所の兵に突き飛ばされていた。
「しかし、私はあちらの世界に行きたいのです」
突き飛ばされ、しりもちをつきながらも兵に訴えている。
「えぇぇい、うるさい奴」
そう言うと、手にしていた槍の柄の方でその若い男を突き飛ばした。
「りなさん、どうしますか?」
犬塚が私にそうたずねた時には、佐助が突き飛ばされて倒れていた若い男のところに駆けよっていた。
「大丈夫ですか?
早く謝った方がいいですよ」
「あ、あ、ありがとう」
若い男は佐助にそう言うと、土下座しながら、兵たちに謝り始めた。
「すみませんでした。
私が間違っていました。
許してください」
「分かればよい。
とっとと引き返せ」
「はい」
若い男はそう言って立ち上がると、そそくさと立ち去り始めた。
「犬塚さん、申世界から外に出るのも難しいのかな?」
「自分たちの生活が普通だと思っている人たちが、あちらの世界の生活を知ってしまったら、暴動が起きかねませんからね」
「それほど差があるって事?」
「こちらの世界の人たちは知らないでしょうが、私たちの側はほぼ当然の事として知っていますから」
「私の世界でも国家間格差ってあったんだけど、ここって民族違えど、同じ国なのにね」
「私の世界ってなんですか?」
「佐助、そこ気にしなくていいから。
とりあえず、行きますよ。と言っても、ナビも無いし、地図も無いと困るわねぇ」
「なびってなんですか?」
「佐助、私の言葉には一々反応しなくていいから」
「分かりました。
ここの案内なら、さっきの人に頼みませんか?」
そう言うと、佐助はすでに遠ざかっていたあの若い男の所に向かって走り出していた。
「りなさん、案内してくれるそうですよ」
「はじめまして。
私は大輔と申します。
こちらの世界を案内する代わりに、向こうの世界の事を話していただけませんか?」
間近で見たその若い男は、丸顔の中にも存在感のある大きな目を輝かせ、そう言った。向こうの世界によほどの興味があるのだろう。まあ、好奇心は人間の成長の元だろうし。
「こちらこそ、お願いするわ。
私はりな。よろしくね」
大輔が仲間に加わった! 的な感じであった。
「あ、ナビしてくれる時だけど、とりあえず、車通れないような狭い道は案内しないでね」
「はい?」
「大輔さん、この人の言う事、気にしない方がいいですよ。
胸が小さい事も気にしないであげてください」
「佐助、やっぱその口、縫い付けてやろうか!」
「ところで、りなさん、どこに向かいますか?」
「そりゃあ、申世界の終着地と言えば、やっぱラ○テルでしょ」
私の言葉に大輔が小首を傾げた。