お堂の中
そのお堂の中は、特に何かがあると言う訳でもなく、扉がある面を除いた三面が板壁で出来た少し薄暗い空間だった。
扉から見えるのは、さっきまで私たちがいた平原であって、猿飼の兵たちが集まって来たら、すぐに見通せる位置ではある。
「集まって来てくれますでしょうか?」
松さんが不安そうに言った。
「大丈夫ですよ。きっと。
兵が集まったその圧力で、城から明地の兵を追い出して、城を取り戻しましょう。
ねっ!」
「はい」
松さんがにこりと笑った。
「しかし、明地って、何を考えているのか、全然分かんない事ないですか?
松さんと結婚したいと言ってみたり、松さんの城を占拠していたり。
そもそも、松さんは明地と結婚する気あるんですか?」
「もし兄上とそのような話になっていたのでしたら、私が知らないと言うとわが家の恥となりますので、何も申し上げませんでしたが、明地様がおっしゃっておられた話は正直なところ、私は初耳でした」
「うーん、そうでしたか。
嘘だったとしても、松さんの兄上が亡くなっているのだから、真相を明らかにすることは難しいわね。
松さんは明地はどんな人だと思っているんですか?」
「優しくて、いい方だと思います。
それでいて、剣術にも秀でていて、頼れる方なんだと思います」
「そうですか。確かにそんな感じもするよねぇ。
それでいて、ばれたとは言え、四公の旗印を使って謀反を起こすなんて、悪知恵もあるみたいだしねぇ。
あれ?
あの作戦って、四公と連携していなかったら、出来ない作戦なんじゃないのかなぁ?
それとも、四公の動きに乗じただけなのかなぁ?
うーん、なんだかすっきりしないんだよねぇ。
みんなが誰かに踊らされているような感じがするのは気にせいなのかなぁ」
なんて、答えの出ない疑問に頭を悩ましている内に、目の前に広がる平原の先に数人の姿が現れた。簡易な具足に身を包んでいるところから言って、緋村たちが広めている松姫様帰還の話を聞いて、駆け付けて来た猿渡の兵に違いない。
何かが起きるのは、変化があってその変化に気を取られた時か、ずっと変化が無くて気が緩んだ時。
そんな事が脳裏に浮かんだ。
「犬飼さん。
お願いがあるんだけど」
そう言って、私は犬飼に一つのお願いをした。
まぁ、そのために犬飼を指名して残ってもらったのだから。