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麒○がくる!

 目の前にあるのは高床式建築物。

 緩やかに曲線を描く屋根には内削ぎの千木が設けられていて、何とか大社とか、何とか神宮の建物と同じだ。

 私の脳裏にこの建物に関する記憶がよみがえって来た。

 私が事故に遭った後、目覚めたら、ここにいたのだ。


「この建物の中には、私をあの世界に転生させた人がいるはず」


 そんな事を思い、目の前にある階段を駆け上り、大社造りの建物の中に入って行った。

 木で出来た壁に囲まれた広い空間の奥には、一人の長い黒髪を真ん中で分けただけの若い女性が座り、その左右でろうそくが揺れていた。


「私をあの世界に転生させたのは、あなたですよね?

 私がまたここに来たって事は、私は死んだの?

 それとも、あの世界に転生させたのは間違いだったので、やり直しとか?」

「お久しぶりですね。

 ここに来ていただいた理由は、どちらも違います」

「そうですか。

 私は、シンデレラ城みたいなお城のドレスを着たお姫様がよかったんですけど。

 あっ、あなたこんな純和風な方だから、西洋っぽいのはだめなんですね?」

「いいえ。可能ですけど、あの世界にあなたを連れて行くために、八房が呼んだものですから」

「えっ?

 八房が呼んだ?」

「あなた、子犬に誘われて、道路に飛び出したんでしょ?」

「じゃあ、あの子犬は八房?

 私は八房に殺されたって事?」

「それは違いますよね?

 飛び込んだのはあなた自身ですから」

「ちょっと、待ってくれる。

 それ問題発言だと思うんですけど。

 振り込め詐欺に騙されて、お金振り込んだら、振り込んだのはあなたですよねって、言ってるみたいに聞こえるんですけど」

「まあ、物事は色々な取り方ができますから。

 それより、これからの事を話しましょう」

「納得いってないんですけど!」

「ここに来ていただいたのは、期が変わったので、期首面談をと思いまして」

「私の話は無視ですか!

 それに期首面談って何ですか?」

「これから半年、あなたが何にどう取り組むかと言うお話です」

「意味分かんないんですけど」

「ともかく、大河ドラマも始まりましたので、あなたには”麒○がくる”を上位方針として、取り組んでもらいたいのです」

「はい?

 全く意味分かりません。

 麒○がくる、観てるんですか?

 受信料、払ってます?」

「あ、ごめんなさい。

 観てますけど、払っていません。だって、ここは天界で、テレビとかで観ている訳じゃないので」

「ワンセグだって、払わなきゃいけないんじゃなかったかなぁ。

 その内電気製品で観てなくったって、観てるってだけで請求に来ちゃうんじゃないですか?」

「じゃあ、観ていないと言う事で」

「まあ、私としてはそれはどうでもいいんですけど、方針が”麒○がくる”って言葉として変じゃないですか?」

「じゃあ、伏字にもしなくていいので、”麒麟を呼ぶ”と言う事で」

「でも、明地が帝位に就いたので、もう麒○がくるんじゃないですか?」

「さあ? それはどうでしょうか?

 将軍たちは表向き明地の帝位に異を唱えてはいませんが、臣従の態度を示してはいませんからねぇ」

「と言う事は、三日天下ってことですか?」

「そこで、あなたには麒麟を呼んでもらいたいのです。

 そのために何を行うのかを大きな3つくらいに絞って、管理項目と共に決めてください」

「なんだか、納得いかないんですけど」

「麒麟が来た暁には、あなたにとって一番幸せな世界に転生させてあげますので」

「本当に?

 だったら、まあ、一つ目は八犬士八人揃えるかな」

「その負荷の割合と難易度は?

 難易度は五段階でお願いします。」

「はい?

 意味分かんないんですけど、とりあえず、これが一番重要なので50%。

 難易度は一番難しいで」

「"一番難しい"ですね。

 ですが、意外と早く揃いそうねとか言ってませんでした?」

「えっ?

 そんな事あったかなぁ?」

「達成できそうな目標をわざと難しいとか言って申告して、本当に難しい事に挑戦しないようになるから、この制度は結局、あなたの国の発展を妨げたって、ネットに書いてましたよ」

「って、あなたの言ってること、意味分かんないんですけどぅ」

「はい。ではまあ、そうしておきましょう。

 で、残り二つは」

「この国の各将の領地を巡って、実情を知る。30%で、難易度は二番目で」

「ただ、巡るだけですので、難易度なんて全然無いと思うんですけどねぇ。

 まあ、いいでしょう。最後の三つ目は?」

「明地を手伝う。20%で、難易度はこれも二番目で」

「ほほぅ。やはり麒麟を呼ぶのは明地だと?」

「うーん、なんだかすっきりしない事が多くて、そう言われるとそうなんだけど。

 それより、あなたは未来の事、分かってるんじゃないの?」

「もちろんです」

「だったら、私はあなたの掌の上で暴れている孫悟空じゃないですか!」

「いいえ、違いますよ。

 未来は変えられるのです。

 そして、私は八房と同じく、八犬士たちの覚醒と麒麟が現れる社会を希望しているのです」

「と、言う事は本当に、このままだと麒麟が来ないって事?」

「ええ。そうです」

「本当に未来は変えられるの?」

「もちろんです。

 未来と言う時の流れは人と人が紡ぎ出した光景を映し出すのです。

 人の振る舞いが変われば、その光景も変わっていくものなのです。

 それはほんの少しの変化かも知れません。

 ほんの少しの揺らぎだけかも知れません。

 でも、それが波及した先で、大きな変化が引き起こされるかもしれないのです。

 ましてや、あなたには八犬士が付いているのですから、あなたが起こした最初の変化でさえ、大きな影響を与えるでしょう」

「うーん、じゃあ、私が誰に賭けるかって重要じゃない!」

「そうですね。

 もちろん、あなた自身がこの国を治めるというのもあるんですけどね」

「いや、それだと私にとって一番幸せな世界に転生できないじゃない!

 でも、この世界、本当に信じられるのは誰なんだろう?」


 なんて言ったところで、私の目は覚めた。

 横には緋村と八犬士たちが眠っている。

 元の世界に戻って来たらしい。


 私のミッション。この国に麒麟を呼ぶ。

 肩の荷が重すぎる。明地から逃げているだけの頃の方がまだ気楽だったような気が……。

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