偽物が本物扱い!?
明地や葉芝の領地と違い、廃れた感の強い芝田の領地だけあって、街道の人通りは少ない。それだけに同じ場所にずっと潜んでいると目立ってしまう。
「どこか隠れて事の成り行きを見守る事の出来る場所ってないかしら?」
「ありますよ」
「どこ?」
「あの旅籠の天井裏」
「あんたねぇ」
とは言ったものの、妙案ではある。
偽の姫が捕らえられる瞬間を見てみたい気もする。
「私も行ける?」
「私が案内します」
「じゃあ、お願いしようかな」
「やっぱり自分は覗かれたくないけど、他人を覗くのはいいんですね」
「なんか、やっぱあんたむかつくよね」
と言いながらも、佐助の案内と手伝いで忍び込んだ天井裏。
偽物の姫の部屋の天井裏で、息を殺して役人たちが到着するのを待つ。
役人たちが来る事を知らない偽の姫は三人のお供の者を連れて、呑気な会話をしている。
「今日はまだ会いたいって人、来るかなぁ?」
「人の口に戸は立てられませんからねぇ。
ここだけの話にしておいてって言っておけば、他人に言いたくて言いたくて仕方なくなるのが人ってもんですよ。
しかも、身分のある者はなおさらです。自分は知っているんだけど、あんたは知らないだろうから、教えてやるよって感じで」
「うーん。だったら、役人たちの耳にも入らないかなぁ」
「姫様、そのような事は口にしてはいけません。
言霊と言って、口にした事は現実に起きてしまうんですよ」
うん、うん。
偽の姫のお供の者の言葉に頷いた時だった。どたどたと大勢の人が近づいてくる足音が聞こえた。
ガラガラ!
勢いよく部屋の障子を開けた。
「ここか?
亡き浜路姫を騙る不届き者がいると言う部屋は!」
来た、来た、来た!
哀れな偽物の末路を見に来たかいがあったよぅ。
そんな気分で、天井板の隙間から偽物の姫の顔に視線を向ける。
姫を騙ったのだから、死罪は免れない。そんな事を感じて恐怖しているのだろうか、顔が引き攣り、体をのけぞらしている。
「うん?」
そのまま一気に、偽の姫たちを縄で縛り上げ捕えると思っていた私の耳に役人の意外な言葉が届いた。
「こ、こ、これは?」
なんだか役人たちが動揺している。
体の位置を変え、天井板の隙間から役人たちに目を向ける。
役人の手にはあの偽の人相書きがある。ただ、以前見た時にはそこに女間者と書かれていたけど、なぜだか浜路姫様と書かれている。
「なんで?」
「しっ!」
思わず漏れた言葉に、佐助に注意されてしまった。
「相違ない」
「ああ、確かに姫様に間違いない」
人相書きと見比べていた役人たちはそう結論を出した。まあ、私も浜路姫本人じゃなきゃあ、人相書きと比べてそこにいる偽物の姫を本物と断定するに違いない。
「これはご無礼を。
姫様は本王寺にて、四公の手で討たれたと言われており、また一方では先帝を亡き者とした真の追手を逃れ、市井に身を潜めておられるとの噂もあり、万が一、姫様がご存命であることが確認できた場合、必ず保護するようにと、我らが主君 芝田勝家より命を受けておりました。そのため、我々も姫様の人相が分かる物を用意しておりましたが、正しく浜路姫様に相違なく」
そう言って、やって来た役人たちは偽物の姫たちの前で、跪いていた。
「い、いや、わ、分かればよい」
突然、本物扱いされた偽物の姫は動揺している。
「これより我らが城にお連れ致します」
「い、い、いえ。それには及びませぬ」
「姫様を保護する事は主命にて」
「いえ、本当に我らは結構。
姫様も町中にいる事を望んでおられますゆえ」
「我が主はある筋より、本王寺を襲ったのは四公ではなく別の者であり、その事を知っている浜路姫様は難を逃れはしたものの、お命を狙われているとの情報を得ており、姫様の保護に全力を尽くす所存です。
このまま姫様をお連れせず、我らが引き揚げた後、姫様に万が一の事が起きるやもしれませぬ。姫様のためにも、ささっ」
そう言い終えると、立ちあがり、半ば強引に偽の姫の手を取り、立ちあがらせた。
「あれって、そう言って、連れ出して、外で処罰するって風じゃないよね?」
「そうですね」
「どう言う事?
それに本王寺を襲ったのが、四公じゃないって話も流れてるって言ってたけど、芝田はあの偽物をどうするつもりなのかな?」
「純粋に姫様と思って、保護しようとしているんじゃないでしょうか」
「うーん。人相書きと言い、何だかしっくりこないんだよね。
何か別の意図が隠されているような。
佐助、知らない?」
「私に分かる訳ないじゃないですか!」
佐助も答えを持っていないと言い切った。