酷い人相書きの顔をした偽の姫
私を騙る偽の姫。
勧善懲悪時代劇に時々出てくるパターンだ。
「本当にそんな人っているんだねぇ。
でも、浜路姫って明地からしたら邪魔者なんだから、命知らずな事するわよね」
「どうします?」
「一度、どんな人か調べて来てくれる?」
「いいですけど、天井裏は使ったらだめなんですよね?」
「いや、私を覗くんじゃないから、使っていいから」
「自分だけ例外で特別って事ですか?」
「あんた、嫌な言い方するわね」
「ともかく、行ってきます」
そう言い残して、姿を消した佐助はしばらくすると、一枚に紙を手に戻って来た。
「これなんだか分かります?」
そう言って佐助が差し出したのは所謂人相書きで、そこに描かれている顔には見覚えがあった。
私を手配するために描かれた、私とは似ても似つかない方の人相書きだ。
「覚えていますよ。
明地が本当は捕まえる気はないけど、一応私を捕まえるためと言う事で、辻々に貼りださせていた私に似ていない方の人相書きでしょ。
それがどうしたって言うの?」
「この人相書きにそっくりなんです」
「何が?」
正直、それは二次元の顔であって、人の顔ではない。そんな人間がリアルにいる訳なんてない。
「だから、偽の浜路姫がです」
「嘘でしょ」
「本当ですよ」
「だったらよ。
その絵は私ではない架空の絵じゃなくて、その子を描いたものって事?」
「さあ? それは分かりませんね。
会ってみますか?」
「会えるの?」
「はい。隠れ忍んでいるって事になっているらしいですが、他言しない事を条件に、お金を積めば会えるみたいですよ。
その時は握手だってしてくれるらしいです。
姫様と握手できるとあって、お金のある殿方たちがやって来ているらしいです」
「そんな人とは、お金を出してまで会わない。
勧善懲悪の時代劇なら、本物のくせに偽物にしれっと近づいて、改心させて無罪放免ってのが定石だけど、それって変だと思うんだよね。
偽物になって、私利私欲を満たしているんだから、盗賊と同じじゃん。
罰さないといけないに決まってるじゃない。
佐助、この辺りを取り締まっている役人に訴えて来てよ。
偽物の姫がいるって書いた文を、風車につけて送り届けるのよ!」
「はい?
いつもの事ながら、りなさんのおっしゃる意味はよく分かりませんが、ともかく役人たちの手に渡した方がいいと私も思いますので、訴えてきます」
そう言い残して姿を消した佐助はほどなくして戻って来た。
「万事順調です。
もうじき、捕まえに来るはずですよ」
「では、ちょっと見てきますか」
そう言って、私と佐助は偽の姫が潜んでいると言う旅籠向かった。