物事はとりよう
「どう言う事?」
「八犬士には色々な力があるのはすでにご存じですよね?」
佐助の言葉に頷いて返す。
「その中に怪我を治す能力を持った八犬士と言うのもいると言われています」
「分かった。犬飼を覚醒させてからでも遅くないって事だよね?」
今度は佐助が頷き返し、立ちあがった。
縄で縛っている犬飼のところに行こうとしているであろう佐助の後を追う。
犬飼は手足が縛られた状態で、旅籠の裏の土間に転がされていた。
どうか、この人に治癒の能力がありますように。
そう願った時、犬王の剣の一つの玉が輝き始めた。
この人が八犬士の一人であることは間違いない。
光り輝く玉に浮かび上がっている文字は”信”。
やがて、その玉は鞘から離れ、犬飼の額に向かって飛んで行った。
「わぉぉぉぉぉぉん!」
犬飼が雄たけびを上げる。私は両手を結んで、犬飼の力が治癒である事を願う。
「姫様、私、犬飼現八と申します。
いかなる姫様の命にも従いまする」
縄で縛られている状態では様にならない。でも、今はそんな事を言っている暇はない。
「あなたも特別な力、持っているんですよね?
それは何?」
「私は幻影を操る事ができます」
「そっかぁ」
「姫様、必ず、必ずや、お力になってみせますゆえ」
私のがっかり感の理由を誤解したらしい。
「あ、もちろん犬飼さんの力、期待しています。
ただ、犬塚さんの命が危なくて、怪我を治せる力だったらなぁって思ってただけ。
まあ、そんなうまくはいかないよね」
「犬塚も、八犬士だったんですね。
姫様、申し訳ない事をしてしまいました」
「いいよ。知らなかった事だし、気にしないで。
佐助、縄を解いてやって。
私は犬王を呼び出すから」
そう言って、私は再び犬塚の下に戻ろうと駆け出した。
裏の土間から、建屋の中を駆け抜けている時、薄暗かった空間に突如、光があふれ始めた。
「何?」
光の元は犬王の剣だった。
「悌の字が光っている。
犬飼の他に八犬士が?」
あたりを見渡すと、一人のがたいのいい若い男が立って、私の犬王の剣の玉が輝いている事に驚きの表情を浮かべていた。まあ、この時代、LEDも電球も無いので、驚くのも無理が無い。
やがて、鞘から離れた玉はその男の額に向かって飛んで行った。
「わぉぉぉぉん!」
お約束の雄たけびを上げたかと思うと、男は私の前で平伏した。
「私、犬田小文吾、姫様はじめ仲間のため、身を粉にして働く所存でございます」
予想外の展開。八犬士を追って訪れた先に、もう一人の八犬士。
「ねぇ。あなた、特別な力って、どんなものを持っているの?」
すでに犬飼が治癒ではない事が分かっている。
物事はとりようだ。
悪くとれば、一度ある事は二度あるで、治癒な訳はない。
よくとれば、確率は上がっているのだ。
どっちよ? どっち?
この人が治癒の能力を持っていますように。
その思いが届いたかどうかの答えが返って来た。
「私が持っているのは治癒の力です」
「やったぁ。
ねえ、すぐに来て!」
なんだか、運が私に向いてきている気がする。
そんな事を心の奥底で感じながら、犬田の手を取って、犬塚の下に急いだ。