海賊王に私はなる!?
「ここで、暫しお待ちを」
庭を囲むように建てられた建物に沿って張りめぐらされた板でできた廊下。
それに面した一つの部屋に私を誘うと、将軍は一人出て行った。
将軍は私の結婚相手である猿飼なる人物を迎えに行くとの事だ。私は少し開けた障子の隙間から、将軍と共に廊下を歩く猿飼なる人物をのぞき見すると言う手はずである。
大体会った事もない相手とどうして結婚しなければならないのか?
この時代の考えとそれを当然のことのように受け入れるこの時代の女性たちは、私には全くもって理解不能である。
このままだと、私はその猿飼なる人物と結婚しなければならない。せめて、イケメンで優しくて、聡明な男性であってほしい。そんな思いで両手を胸の辺りで結んで、神様に祈る。いや、毒を吐く。
「ぜんっぜんっ、私が願った姫とは違うんだから、せめて結婚相手くらいはこの世で一番の男性にしてよねっ!」
しばらくすると、将軍が入って行った部屋の障子が開いた。
全神経を集中させる。
最初に出て来たのは将軍。続いて出て来た男性が視界に入るなり、私の思考回路は即、答えを出した。
「おおっ! イケメン」
将軍もイケメンだけど、こちらもイケメンで痩身。将軍は武人なだけあって、ごつい身体とすると、こちらは気品漂う体つき。言い方変えると華奢。
これなら、結婚してもいいかもなんて思っている私の視界にもう一人の男が入って来た。
人の好みは色々なので、コメントは避けるとして、私としてはあり得ない容姿。せっかくイケメンを二人見て、心和んでいた気分を一気に吹き飛ばすほどの破壊力。
「誰、あれ」
「将軍と明地様と猿飼様ではないですか」
また頭上から佐助の声がした。
「佐助、明智って誰?
なんで、猿飼や将軍と一緒に歩いているの?」
「姫様の従兄だからですよ」
「えぇぇぇっ! あんなのと血がつながってるなんて事はないでしょ。
全然似てないじゃんか」
「そうですか?
姫様も明地様もお二人とも美形だと思いますけど」
「うん?
ちょっと待って、将軍の後を歩いている二人のどちらが猿飼なの?」
「一番後ろの方ですけど」
「えぇぇぇぇっ!
あり得ないよ、あり得ない。
私、逃げるよ」
「逃げるったって、どこに逃げるんですか?」
「じゃあ、じゃあさ。
結婚は無かった事に」
「無理ですよ。
相手は猿飼様のご子息ですよ。猿飼様との間がこじれると陛下もお困りになるでしょ」
「そんな家の子なの?」
「そりゃあ、その名が示すとおり、四公を抑えている将軍家ですから」
「名前どおり?
四皇?
この世界にも四皇っているの?」
「ずっと前からいるじゃないですか。里見義実様がこの国の皇帝となられた時に力で四公を屈服させた時から」
「と言う事は、もしかして”海賊王に私はなる!”って世界?」
「そうですね。
姫様は”甲斐国王に私はなる!”に違いありません。
正確には王ではなく、皇帝ですが」
「えっ?
ここって、海賊なの?」
「甲斐族でしょ?
姫様、やはり頭打ちました?」
「打ってないから、大丈夫。
そう、そっちは大丈夫なんだけど、別の意味で大丈夫じゃないじゃんかぁ!」
お笑いに思考を振って、とんでもない相手と結婚しなければならないと言う現実から、私は目を逸らそうとしてはみても、猿飼のあまりの破壊力の前には無駄な事だった。