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廃れた村

「佐助、この前、明地が言っていたけど、あなたは今、誰の味方なの?」


 あれからいくつか気になっていた事があった。

 そのいくつかは時が答えを与えてくれた。

 その一つは明地が私たちを本当に捕えようとしないのかどうか。

 亡くなった事になっている私はもちろん、松さんに対する手配も無くなったようで、明地の領内は平穏に移動できた。

 辺りを探った佐助が言うには、私たちに対する監視とかそう言うものも付いていないらしい。

 そして今でも答えを得ていない最後の気になる事を直接、本人に聞いてみたのだった。


「りなさん、前にも言いましたよね。

 私はこの国に雇われているって。

 なので、この国のためになる事のために命をかけております」

「その国のためって誰にとっての国のためなの?」

「そ、そ、それは国は国ですよ。国のためですっ!」

「うーん、一瞬詰まったところを見ると、具体的には何も考えていないんじゃないの?」

「は、ば、ばれましたか。

 そう言うことです」


 ともかく、私の亡き父のために仕事をしていなかったのは確かだけど、具体的に他の誰かのために働いているのではない。そんなところらしい。


「それより、りなさん。

 国境くにざかいが近づいてきましたよ」


 佐助の言葉に視線を先に向けると、そこにはこれまで越えて来た関所よりも物々しい光景が広がっていた。

 太い丸太で頑丈に造られた柵。それも少し今までよりも規模が大きい気がするけど、それ以上に違うのは兵の数だ。

 柵の向こうに居並ぶ兵の数は尋常じゃない。


「これが国境なの?

 こっちの明地の側には兵の数はあまりいないのに柵の向こう側には兵がいっぱいいるけど、どうして?」

「りなさん。それはここを越えて行けば分かりますよ」

「この向こうは芝田が治める領国なんですよね?

 緋村、芝田って、どんな人なの?」

「芝田は里見家の重臣中の重臣で、戦にかけては並び立つ者無しと言われた猛将で、鬼の芝田と言う異名を持っています」

「だから、兵の数も多いってわけか」

「それだけではなく、佐助も言ったとおり、この先に進めばその理由も分かりますよ」

「で、あんなに物々しいのに、簡単に通してくれるんですか?」

「私たちは大丈夫ですよ。

 一つは明地側から芝田側へと言う事。

 もう一つは私や犬塚殿、それに若侍姿の松さん。こちらには侍がいますからね」

「侍がいると通れるの?」

「はい。

 他国の侍ともめ事を起こす訳にはいきませんからね」



 緋村のその言葉通り、私たちは明地と柴田の領国の国境を難なく通過した。

 明地の宿場町から国境に向けて歩く街道に人の姿は無かったけど、国境を越えてからも人の姿は無い。


「やっぱり、国境を越えるのは難しいからなのかなぁ。

 人がいないね」

「まあ、それ以外にも理由はあるでしょうけど。

 佐助、近くに村はあるのか?」

「緋村さん、村ならありますよ。

 行ってみますか?」

「案内してくれ」


 人気が無い事と村がどう言う関係なのか? なんて疑問の答えはすぐに出た。

 街道からそれた場所にあった村、それはこちらの世界で今まで見た中でも比較できるものが無いほど荒れ果てていた。

 木の板で造られた壁には至る所に穴が開き、道端にはすでに息絶えているとしか思えないかつて人だったはずの干からびた物体が転がっている。


「佐助、ここの住人達は?」

「老人だけだよ」

「他の人は?」

「働ける男は兵に採られて、ここにはいない」

「だったら、畑仕事は?」

「老人たちだけでは十分にできないから、作物も十分収穫できない。そのできない作物の中から、できた分すら徴収されていくから、ここの人たちは十分な食べ物を手にできない」

「ひどいじゃない」

「芝田は先帝の命により、越国侵攻のための兵が要るだけではなく、領国内で一揆が起きていて、その一揆を抑えるための兵も必要なんだ。だから、ほとんどの男は兵となっているんだ」

「それじゃあ、この芝田の国は疲弊するじゃない」


「おおっと。それはそれで都合いいんだよ!」


 そう言って、私たちの前に現れたのは刀や槍と言った武器を手にした数十人の男たちだった。


「どうやら、盗賊のようですね」

「おうよ。

 村と言う村、男たちがいないから、俺達も安心して占拠できるってもんさ。

 そして、街道を通るお前たちのような他国者を襲い、金品を奪うのさ」

「うーん。緋村、この場合、あいつらの被害を最小限に収めるには、あんたの技に頼るのが一番じゃないかと思うんだよね」

「じゃあ、りなさん。

 そう言うことで」


 そう言い終えると、緋村が諸刃の剣を抜き放った。

 緋村の剣の一振り。

 視界に映る空気の歪が盗賊たちに向かった。

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