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酷い人相書きの真相?

 刀を納めよと言われても、簡単に従う訳にもいかない。

 それは相手の男たちものようでお互い顔を見合わせていたが、割って入った男たちの中の一人の顔を見知っていた者が男たちの中にいた。


「もしや、秀満さまで?」

「いかにも」

「皆の者、刀を納めよ」


 その言葉に男たちは刀を納めたかと思うと、秀満と言う男の前に跪いた。

 その秀満と言う男が何者なのか、私は知らない。だけど、男たちの行動から言って明地の重臣に違いない。その事は私たちに近づいてきているもう一人の男の存在が裏付けている。

 半信半疑だったけど、その男は明地剣史郎。私のこちらの世界での実の父であり、先帝 里見光太郎を討った張本人。


「姫様、あなたも刀をお納めくだされ」


 秀満と言う男は私を浜路姫と認識している。


「納めれる訳ないでしょ。

 私をどうする気?」


 視線を目の前の秀満と近づいてくる剣史郎に向けながら言った。


「よもやと思いましたが、生きておられたのですね」

「なんであなたがここにいるのよ?」

「民の暮らしぶりは自分の目で確かめるしかありませんので」

「なるほど。

 で、生きていた私をどうするつもり。

 殺すの?

 それとも、帝位を正当化するために無理やり結婚させる気?」

「何もしません」

「そんな訳ないでしょ。

 私を捕まえようとしていたじゃない」

「確かに姫様を野放しにしてはならないと言う意見もありましたので、形ばかり手配することにしましたが、あの人相書きでは姫様と分からないと思いますが」

「どう言うこと?

 あの私に似てもいない人相書きはわざと私だと分からないようにするためだったと?」


 明地は静かに頷いてみせた。


「でも、私を捕まえに来た役人たちは私そっくりの人相書きを持っていましたけど」

「うーん。それは私は把握していませんが、もしそうだったとすると、家臣の誰かがやった事なのかも知れませんね。

 秀満、知っているか?」

「陛下、私も存ぜぬ事でございます」

「だとしても、私はあなたを信じる事はできない」


 刀を構えたまま明地への警戒を解いてはいない。


「私の事が憎いですか?

 そうですよね。あなたの父上を討ったんですから」

「そ、そ、そうよ」


 前の世界での実の父親を討った相手なら、死ぬほど憎んだはず。だけど、こちらの世界の父親に対しては何の感情も抱いていなかったので、憎しみは持っていなかったため、少し躊躇い口調になってしまった。

 この男に対しては、そんな感情的なものより、論理的な思考が生み出す警戒心を強く抱いている。

 今ここでその憂いを断つため、この男を斬る事はそれほど難しい事だとは思わない。だけど、明地の本拠地でそれをやってしまえば、周りは全て敵になってしまい、生き延びれるとは思えない。

 そんな私の心情を知っているのか知らないのか分からないけど、明地は落ち着いた表情のまま話を続けてきた。


「私はただこの社会の秩序を取り戻したかったんです。

 庶民の生活は破綻し、餓死する者まで出ていた。だと言うのに、まつりごとを担う者たちは無関心でただただ自分の事だけを考えている。

 いずれ民の不満は爆発し、この国は崩壊するしかなかった。

 私はそれを止めたかったのであって、帝位に就きたかったわけではないのです」


 確かに本王寺に向かう途中で見た悲惨な民の姿。助けを求める民を穢れ者のように扱う先帝の姿。それとは対照的な葉芝や明地の領国の民たち。先帝と明地のどちらが上に相応しいかは、理性的に考えれば答えは明白だ。だからと言って、父である先帝を殺された姫と言う立場で考えれば、明地を受け入れると言う選択肢はあり得ない。


「他にも聞きたいことがあります。

 なぜ松さんを人質にとられたのですか?」

「人質に?

 そんなつもりはありませんでしたが」

「では、なぜ松さんを城に監禁したんですか?」

「監禁?

 城で保護しているつもりだったんですが」

「監禁されてたんだよね?」

「えぇぇっと。外に出してもらえなかったり、国に帰る事を禁止されていただけで、監禁とまでは」

「と、と、ともかくですよ。

 松さんはどうしてそんな事になっていたんですか?

 猿飼の家に対する人質だったんでしょ」

「うーん。何か誤解があるようですね。

 松さんはいずれ私の妻にと考えておりましたので、私が帝位に就いたあと、それこそ松さんが人質にとられては困りますので、保護していたのです」

「あれ? 私とは?」

「えっ? そんな話ありました?」

「私のところに来て、幼き日の約束がって言いましたよね?」

「ですから、叶えられないって言いましたよね」

「確かに。

 なら、私と結婚して帝位を正当化するって言う話があるのはどう言うことなのよ」

「そんな事、私は言いましたか?

 確かに亡き陛下が姫様と猿飼殿との婚約を決められるまでは、そのような選択肢も捨ててはおりませんでしたが、猿飼殿との話が決まってからはその選択肢は無いものと考えておりました。

 とすれば、私の相手は私の好みにより選ばせていただく事となりますので、姫様には悪いですが松様となります」

「それはやはり胸の大きさですよね?」

「佐助、どこから湧いて出て来た!

 あんた胸に執着し過ぎなんだけど」

「りなさん、まあそれは置いておいて、一度刀を納めましょう」

「佐助、でも私はこいつらを信用できないよ」

「姫様。もし陛下が姫様に害意を持っておられたら、この者たちを止める事は無かったと思いませんか?」

「りなさん、秀満様のおっしゃる通りかと。

 刀をお納めください」


 なんで、この小僧にと思わないでもないけど、言っている事には理がある。

 私は刀を鞘に納めることにした。

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