腕試し
大きな体と腕力、そして牙と爪と言う武器はあれど、知性と言う最強の武器を持たない熊が相手ならまだしも、武器と知性、そして統率された集団行動も可能な人間を敵とする場合、私自身が刀を持って戦うと言う選択肢が私を生き残らせると言う目的に合致しているのか?
それを見定めるには私の実力を知っておく必要がある。緋村の言葉に、私の力を見せてやろうじゃないのよと、その気になった私。
どこから調達したのか、元の世界の竹刀に似た物を緋村が持ってきた。
「りなさん。まずは私が打ち込みますので、受け流してみてください。
少しずつ速くしていきますので、限界になったら言ってください」
「分かりました」
そう言うと全神経を緋村の動きに集中させ、両手で竹刀を握る。
実戦でも乱戦でもなく、お互いにかまえて向き合う。
緊張の糸が張り詰める。
久しぶりの感覚が少し私を興奮させる。
「行きます!」
緋村が竹刀を私目がけて振り下ろしてくる。
その動きは余裕で見切れる。
全てを自分の竹刀で受け止めて行く。
「さすがですね」
「楽勝ですよ」
道場を開く一家に生まれ、幼少の頃より剣道の道を歩んできた私。各種大会で優勝を総なめにし、大きくなってからは、男子相手でさえ負けたことがない。
「では、早くしていきます」
「どうぞ」
余裕で緋村の竹刀を受けて行く。
その速さは徐々に上がって行き、さすがの私も限界が近づいて来た時、緋村が動きを止めた。
「なるほど。
戦いに真っ先駆けて突っ込んで行くだけの事はあります。
りなさんの警護を任せられていた時、剣術の練習をされているところを見た事は無かったのですが」
「密かにね」
としか言いようがない。
「では、今度は全力で私に打ち込んできてください」
「私の全力を受けるつもりだなんて、さすが余裕ですね。
では、お言葉に甘えて」
そう言い終えるなり、全力で地面を蹴り、全力で竹刀を振り下ろす。
緋村が私の竹刀を受け止める。
そのまま連打する。
緋村の腕もさすがで完璧に受け止め続けている。
「もういいでしょう。
りなさんの腕は大体わかりました」
「緋村、私は緋村の腕、まだ分かっていないわ。
勝負しましょう」
「仕方ありません。
では、いつでもかかって来てください」
挑発に挑発で返された気分。
少しばかり脅かそうと本気で打ち込むつもりで、竹刀を構える。
間合いを縮め、緋村の竹刀の切っ先を打ち払い、籠手と見せかけて、一気に胴を狙う。
もらった!
そう思い振り抜いた私の竹刀は緋村の竹刀に受け止められていた。
突然現れたように見えた緋村の竹刀。
えっ?
そう思った次の瞬間、緋村の竹刀は私の顔の横に突き出されていた。
それが真剣だったら、いいえ、竹刀であっても顔に命中していたらと思うと、恐怖で足が震えてしまう。
「えっ、えっ?
何が起きたの?
私、全然見えなかった」
「今のが私の全力です」
中学生以降負け知らずだった私が完敗だ。
私より強い男が目の前に。
「まいりました」
「これくらい早くなければ、一斬りの技は使えませんからね」
やはり、あれはかまいたちみたいなもの?
「りなさんの強さがあれば、大勢の敵を一度に相手しなければ、一人でも十分戦えると思います。
なので、今後はこうしたいと思います。
私と犬塚さんで敵と戦います。
りなさんはいざと言う時以外戦いには参加しないでください。
いいですね」
「分かりました」
緋村の人間離れした強さは理解したけど、ちょっと不満口調になってしまう。
男の人達に守られるだけの存在と言うのは好きじゃない。自分の事を自分で守るため、そして自分の大切な人たちを守るため、ずっと剣道をしてきたのだから。
「りなさん。
緋村さんが言っているのは、こう言う事だと思います。
りなさんが普段から剣を振るわなければ、だれもりなさんが強いとは思いません。だから、相手はりなさんの存在は眼中になく、油断していると思います。
私たちが苦戦したり、乱戦やお二人だけの時に松さんを狙う者が現れてもりなさんが強いと分かっていない方が対処しやすい。そう言う事ですよ。言わば最後の砦で、その力を期待しているって事です」
「うーん、そうなのかなぁ」
「そう言う事です。
こんな強い女の人は見たことが無い」
「緋村さん、りなさん、胸無いから男かもしれませんよ」
「佐助、やっぱ一度死んでみる?」
思わず手にしていた竹刀を投げ捨て、犬王の剣に手をかけてしまいそうになっていた。