私の護衛はイケメン将軍様
私の部屋に飛び込んできた男の子。細面に通った鼻筋。その両側に広がる大きな瞳は温和な光ではなく、ちょっと厳しい光を放っている。
「ねぇ。あなたも私の警護?
名前は?」
「お忘れですか?
あなたの専属の警護をしている緋村献身じゃないですか」
「緋村○心? もしかして、人斬りの」
「はい。一斬りと呼ばれてはいます」
「じゃあさ、その腰に差している刀見せてくんないかな?」
その緋村と名乗る男の下までそそくさと近づいて行った。
「だめです」
「普通の刀じゃないんでしょ?」
「なぜそれを姫様が?」
戸惑っている緋村の隙をついて、刀を抜き放った。
きらりと光り輝く刀身。本来刃が無い側に浮き上がっている綺麗な刃文。
「おお。逆刃刀」
「さかばとう?」
男が訝しがった時、私は手にしている刀の驚愕の事実を知った。
刃文がもう一方の側にもあるではないか!
「これって、諸刃の剣?」
「左様。諸刃の剣でございます」
「これってさあ。自分で自分を傷つけたり、相手の刀を受け止めて力負けしたら、自分が危なくないですか?」
「危ないに決まっているじゃないですかっ!」
なんか男は威張り気味だ。
「じゃあ、どうするのよ?」
「力負けしないように鍛えていますから、大丈夫です」
「なるほどね。
まず刀は返すね」
男が刀を受け取り、鞘に納めるのを確認してから、にこりと微笑んでお願いを言ってみた。
「さっき、あの子が分身の術をやってみせてくれたんだよね。
確かに男の子がいっぱいに見えたんだけど、子供じゃねぇ。
あなたやってみせてくんない?
ねっ?」
「姫様。何か誤解されていません?
私は彼のような忍びではなく、武人、将軍ですよ。
分身の術なんて、できる訳ないじゃないですか」
「将軍?」
将軍と言う役職が安売りされているって事は、この世界の将軍は徳川家のようなものではなく、関羽みたいな役職らしい。
「残念だけど、諦めるわ。
将軍みたいなかっこいい男の子に囲まれて暮らしたら、楽しいんだろうけど」
そう言って、将軍と名乗った男を見つめてみた。
私としては、「姫様の言葉ですから、やってみます」とか意見を翻すのを期待していたのだけれど、将軍はバツ悪そうに目を逸らして、口を開こうとしない。
「私がこうやって、見つめているんだから、何か言うことない?」
「あっ。そうでした。
以前、お願いされておりました猿飼様をちらりとのぞき見する機会を作りました」
「さるかい?
だれそれ?」
「姫様はそこまで猿飼様がお気に召さないのですね?」
「もうすぐ姫様の旦那様になるお方ではないですか」
佐助がぽろりととんでもない事を言った。
いきなり前世の意識が覚醒した私は、近々結婚することになっていたらしい。
もしかして、この時代の私の意識はその結婚が嫌で逃避し、私に意識を全て預けたなんてことじゃないよね?