マジックポイント??
緋村に佐助、そして私の三人は崖っぷちに立って、役人たちと対峙する。
緋村は一斬りと呼ばれるほどの技を持っていて、その諸刃の剣の一振りで多くの敵を倒す事ができる。
ただ、今は敵を倒す事が目的ではない。
この崖から落ちて……。
役人たちの相手を佐助と緋村の二人に任せて、犬王の剣の柄に手をかけて、ちらりと崖の下を覗き込んでみる。
ここは東尋坊ですかっ!
垂直に切り立った崖の先は深く、深く、その先には東尋坊のような日本海ではなく、急流の川が流れている。万が一崖の岩々にぶつからず、生きたまま川面にたどり着いたとしても、溺死と言う未来が待っているのは確実そう。
犬王の剣で呼び出しても、八房と伏姫が現れなかったら……。
なんて恐怖が襲ってきて、足が震えて、この作戦は取りやめようと思ってしまう。
「やっぱ止めようよ」
そう言いながら、振り向いた時だった。
「うわぁぁ」
佐助が倒れ込んできた。
「きゃああああ」
そのまま私は足を踏み外し、崖の下に。そして、佐助はよろめいた時に、正確にはきっと佐助の芝居だと思うけど、緋村を掴んでいたらしく緋村と佐助も一緒に落ちている。
「い、い、いでよ、犬王!」
犬王の剣を抜き去りながら、叫んだ!
来て、来て、来てぇぇぇぇぇ!
心の中で叫んだ瞬間、落下していた感覚はなくなり、辺りは静かな闇に包まれた。
そして、あの時と同じように遥か天空の先に白い点が現れた。
「助かったぁ」
ほっとした安堵に包まれ、天空の白い点が近づいてくるのを待つ。待つ、待つ、待つ。
本王寺では一気に近づいて来たと言うのに、なんだか今日は遅い。
「なんか遅いね」
「疲れてるんじゃないですか?」
「佐助、そんな訳無いと思うんだけど」
なんて、無駄口をききながら、八房と伏姫が到着するのを待つ。
やがて、あの時と同じく、犬の妖 八房にまたがった伏姫が現れた。
「浜路姫よ、そなたこの剣の使い方をきいておらなんだのか?」
伏姫の声からは佐助が言ったように疲れを感じ取れる。
「はい?
犬王の力を持つ者だけが、犬王様を呼び出せるって聞いてましたけど?」
「それだけではない。
すでにこの世界の者ではない我らが、この世界に姿を現わし、そなたの希望を叶えるために妖の術を行使するのにはかなりの力を消費する」
「マジックポイントみたいなもの?」
「相変わらず、訳の分からぬ話をするのぅ。
ともかくじゃ、消費した力を回復するまで、そなたの希望を叶える事はできぬのじゃ。
それゆえ、本来ならば呼び出されても現れぬところだったんじゃが、おぬしたちは崖から落ちておったから、無理してでも現れるしかなかったのではないか」
「と言う事は、下手したら私たちは死んでたって事だよね!
佐助、あんたなんて作戦立てるのよ!」
「まあ、助かったんだから、いいじゃないですか」
「よくないっ!」
「浜路姫よ、それより希望はなんじゃ?
今ある力、全てでそなたの希望を叶えてやろうぞ。
念のため、言っておくが、願い事は一つだからな。
それと心しておくがよい、此度力を使えばひと月は現れる事はできないぞ」
「分かりました。
では、一つ。一番遠い所にいる八犬士のいる町に私たちを運んでください!」
「姫よ、八犬士のいる場所を知らぬであろう。
こそっと二つの願いを言いおったのぅ。
残念じゃが、一番遠い所まで姫たちを運ぶ力は残っておらぬので、一番近い八犬士の町に運んでやろう」
そう伏姫が言い終えた瞬間、闇は霧散し、どこかの町の景色が私たちの周りに現れた。