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酷い人相書き

 怪しげな宿での大捕り物は緋村と佐助と活躍で何とか逃げ切った。とは言え、その事はかえって追手の数を増やす事になったに違いない。

 早く遠くの宿場にと言う話もあったけど、佐助のこの宿場の人気のない場所に潜むと言う提案が採用され、私たちは未だに騒動を起こした宿場に留まっている。寝床は宿場外れの古びたお寺のお堂。

 緋村がとんでもない発言をしたので、なんだか意識してしまわずにいられなかったけど、あれ以降も普段と同じ態度なところから言って、あの場における二人の関係を誤魔化すためのものだったんだろう。

 なんだか、一人で意識して損した気分。



「あー、ここにもあるんだけどさぁ。

 これもちょっと酷くない?」


 旅籠に役人が来た理由。それは町を注意して歩いてみれば分かった。

 辻の所々に敵国の女間者の人相書きが貼られているのだ。しかし、その質と言ったら、酷すぎる。

 髪なんかも雑としか言いようがないだけでなく、頬は膨らみ過ぎだし、何と言っても瞳が顔の輪郭に比べて大きすぎる! まるで私の元の世界の二次元世界の住人並。でも、そっちはかわいいけど、こっちは可愛さなど微塵も無く、化け物。


「こんな顔、人じゃないよ、化け物だよぅ。

 でも、あの役人が持ってたのは佐助の長老が描いたものだったけど、どうしてこうも違うのよ」

「理由は簡単だよ。

 長老が描いたのは一枚だけ。

 それを写し取って何枚もの人相書きを作るんだけど、写し方にはいくつか方法があって元の絵を見ながら移すと言う方法だと、写す人の技量がそのまま絵に出るんだよ。

 もう一つ、版画だね。こちらは同じ質のものできるんだけど、元の絵は無くなってしまうし、数にも制限がある。

 まあ、いずれにしても人相書きは似てない方がいいでしょ」

「そうだね。

 まあ、これなら私だって分からないよね?

 あれ? だったら、あの時、私たちがあの宿にいるって訴えた人は何を見て思ったんだろ?

 これじゃないよね?」


 そう言った時、背後で何やら私の事をひそひそと話している人たちがいる事に気づいた。


「えっ? えぇぇぇぇっ。

 なんで?」

「りなさん、いずれにしても立ち去りますよ」


 緋村はそう言うと、私の手を握った。


「引っ張らなくても行きますよ」


 ちょっと意識していた名残りがあって、慌ててその手を振り払って、そそくさと歩き始めた。


「こちらに向かいましょう」


 先頭を行く佐助が言った。忍びの感性が安全な方向を示しているのかも知れない。そんな思いでついて行く。


 私たちの追手の到着は意外と早かった。


「お前たち、待て。

 聞きたいことがある!」


 無視するどころか、私たちはその言葉に反応し、速度を上げる。


「でも、なんでよ。

 なんであんな似てもいないのに私の事だって思われるのよ? 私って、あんな化け物顔なの?」

「人相書き、胸から上も描かれていたので、りなさんの胸の大きさで判断されたんじゃないですか?」

「佐助、死にたいの?」

「りなさんはあんな化け物顔じゃないです。

 かわいいですから、私が保証します」

「緋村の言葉はどう返していいのか分からないよぅ」

「私が思うんですけど、その簪じゃないですか?

 普通の庶民の娘は簪なんて持ってませんし、しかもその簪どう見ても高価そうです」

「それか!」


 問題の簪を引き抜こうと上げた手をまた緋村に掴まれた。


「な、な、何を?」


 胸のどきどきが激しくなったのはきっと走っているせいであって、緋村が私の腕を掴んだからじゃない。そう言い聞かせながら、緋村に目を向ける。


「今、役人たちの前でとらない方がいい」

「なるほど、それはそうかもね」

「それより、りなさん、この先で私たちは死んだことにしないですか?」

「佐助、何を突拍子も無い事を言うのよ。

 そんな事、どうやってするのよ?」

「ここは山の中腹の宿場町です。この街道の先に崖があります。

 そこから落ちて死ぬってのはどうです?」

「あんたねぇ。あんたは忍びだから大丈夫かも知んないけど、私は死ぬか大怪我でしょっ!」

「違いますよ。

 飛び降りた後、犬王様を呼び出すんです。

 犬王様を呼び出した時、本王寺から違う場所に私たちはいましたよね?」

「なるほど。分かった。

 それで行ってみましょう。

 じゃあ、その場所で役人たちと戦っている最中に誤ってみんなで落ちる。

 それでいいよね?」

「りなさんの意のままに」


 私たちの作戦は決まった。

 これで私たちが死んだことになれば、人相書きもなくなるだろうし、追手を気にしなくてすむ。


「あれ?

 さっきの話でもし、私が簪を外せば済む話なんじゃなかったっけ?」

「そっくりな人相書きだってあるじゃないですか」

「そうだったね。

 佐助、ごめん」


 と言う訳で、私たちは佐助の発案に従い、崖っぷちの街道で役人たちと乱闘に入った。

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