表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/156

私にとって一番幸せな世界

最終話は姫視点に戻ります。

元々は全て姫視点だったのを緋村視点に変えたせいで、梓ちゃんへの私の想いが変わってしまい、エンディングまで変わってしまいました。

 申世界に巣くう妖 妙椿は葬り去った。そして、もう一つの実体を持たぬ妖 玉梓は再び梓の体の中に取り込まれている王毘笥に封印した。


 佐助を含む伊香の里はあかねたちの封魔の里との対決に敗れさり、力を失った。

 私たちの勝利を知った北條は封魔の里の働きかけもあり、自国に引き返し、終戦に向けての調印を待つばかりとなった。


 毛里は多くの兵が玉梓の餌食となり、国力を削がれてしまい、我が国との終戦に合意した。


 残る植杉も植杉謙信が率いていた頃に比べ、戦闘力を大きく落としており、明地剣史郎が影で率いる明地勢に押され、終戦の提案を飲み、自国に引き上げた。





 私が明地の本陣に到着したのは、まさにそんな時だった。

 この場には、丹葉長秀も、多岐川一益も呼び寄せている。


「明地さん。では、これで再び平和が訪れたと言う事ですね」

「ですが、姫様。先帝殺害の一件は解決しておられぬのでは」


 言ったのは丹葉だ。


「それは全て妙椿と大猿日吉、つまり葉芝秀吉が仕組んだ事。

 明地殿には関係ありません」


 私としてはそれが一番穏便に収められると考えている。


「いえ。浜路姫様。

 家臣が企てた事とは言え、それを拒絶しなかった私に責任が無い訳ではありません」

「明地さん。

 それはこの国をうまく治める事で、責任を果たしてもらえませんか?」

「浜路姫様。それはご自身は帝位にはつかぬと言う事でしょうか?」

「丹葉さん。

 そのつもりです。

 私の意思は代々里見家に伝わる犬王の意思。そう理解し、今後明地さんにしたがっていただけませんでしょうか?」

「姫様のご意思と言うことでしたら」


 そう言い終えると、犬坂を見た。

 丹葉の本心を読んだ犬坂が頷いて見せた。本心と言う事だ。


「多岐川さんもそれでよろしいか?」

「はは」


 多岐川のその言葉に続き、犬坂が頷いた。


「では、これにて。

 明地さんと緋村、八犬士の皆さん、あと梓だけ残って」


 そう。最後のしめだ。




『さて、本物の浜路姫様。

 私はこの体をあなたに返すけど、その前に里見家に伝わる滅びの言葉をいい加減教えて欲しいんだけど』

『だめです。

 それは教えません』

『そう。この世界のお約束から言って、大体推測できるんだけどね』


 全ての妖の力を完全に封印すると言う言葉、滅びの言葉。

 元の姫はそれを頑なに教えようとはしない。


「みなさん。

 八房や八犬士の力、玉梓の力、全てこの世界から消し去りたいと考えています。

 異存はありますか?」

「姫様の御心のままに」

「異存はございませぬ」

「では、この世界にある妖力を全て取り出します。

 バ〇ス」


 八犬士たちの痣が光り輝き始めた。

 私が腰に差す犬王の剣も光り輝き、梓の右手の痣も眩い光を放っている。


『なんで、穿篭守ばるすだって分かったのぅぅ』


 元の姫が絶叫している。

 辺りの空間をまばゆい光が埋め尽くす中、長い首の生き物が姿を現わした。

 麒麟まで来るとは私の想像を越えていた。

 私たちの前に姿を現わしたそれは動物園で見るキリンの容姿ではなく、ビールのデザインにある麒麟に近い。


「この地に平和が訪れた。

 しばし、私はこの地で過ごす事としよう」


 麒麟が言った。


「一つあなたに食して欲しいものがあるんだけど」


 そう言って、私は両手で器を作った。

 そこにはぼんやりといくつもの玉が浮かび上がり始め、それは完全な実体となった。

 犬王の剣に取り付けられていた宝石、つまり門巣断亜母生篭と裸婦照に封印されていた王毘笥。


「なるほど。

 この世に妖の力は要らぬと言う事じゃな」

「人の世は、人が作っていくもんだよ。

 妖とか、人智を越えた奇跡のような力を頼ってたら、だめだと思うんだよね」

「なるほど。

 では、食させていただこうか」


 麒麟が長い首を曲げて、私の手の中にある門巣断亜母生篭と王毘笥を完食し、姿を消した。



「さて、ではそろそろ私は元の世界に帰るけど、緋村、梓の事よろしくね。

 そのためにも、今一度、大きな声で言ってくれないかな。

 梓が好きだって」

『嫌よ、嫌よ。嫌。

 そんな言葉聞きたくない』


 元の姫が騒いでいる。


『だって、あんた自分で緋村に好きって言ってなかったんでしょ。

 自分の気持ち、ちゃんと伝えないでどうするのよ』


 元の姫にそう言った。


「姫様。その意味は?」

「前にも言ったでしょ。

 私がこの世界から消えると、元の姫が戻って来るって。

 だから、引導を渡したいの」

「分かりました」


 緋村がそう言った後、深く息を吸い込んだ。


「俺は梓が好きだ!」

「緋村様」


 二人が抱き合っている。これでこの二人は公認だ。


「さて、明地さん。

 後の事はよろしくね」


 明地剣史郎が頷くのを確かめ、私は右手を天に向け、高くつきあげて言った。


「我が生涯に一片の悔いなし!」


 そう言い終えた時、私の意識は薄らいでいった。






 青い空。降り注ぐ太陽。


「あれ?」


 そんな事を思いながら、私は辺りを見渡した。

 西洋風の姫への転生。それを期待していたのに、今回も全然違う。

 アスファルト舗装された道路。

 車道を行きかう見慣れた車。

 空の景観に溶け込んでいる電線。

 手に持っている鞄。

 そして、ブレザータイプの制服。


 元の世界?

 ここが私にとって一番幸せな世界なの?

 確かに優しいお母さん、可愛い弟、ちょっと厳しい時もあるけど、私に甘いお父さん。

 別に不満なんてない。

 好きな人に想われてはいないけど、その姿を見れるだけでもどきどきする。


「まっ、いいか」


 そう思って、止まっていた足を動かし始めた時、私の目に車道に飛び出そうとする子犬が目に入った。

 八房?

 そう言えば、ここで私ははねられたんだった。

 そんな事を思いつつも、子犬を助けずにはおられない。

 また、同じことをするの?

 私ってばかなのかな?

 そんな事が脳裏に過るけど、動き出した足は止められない。

 子犬を追って、車道に飛び出そうとした時だった。

 私は右腕を掴まれて、引き留められた。


「あ、あ、犬が」

「佳奈ちゃん。危ない!」


 突然、私の名を呼ぶその声。聞き覚えがあった。

 視線を向けると、そこには私の大好きな大野君の緊張気味の顔があった。


「ご、ご、ごめんなさい。

 つい犬が」


 そう言って、車道に目を向けた。子犬は車道を無事渡り切り、反対側の車道で見知らぬ人の傍にいた。


「いや、俺の方こそ、ごめん」

「なんで?」

「あの子犬、俺んちのなんだ。

 散歩に連れて行こうとしてたら、俺の母親を見つけて、俺の腕から飛び出したんだ」

「あっ。そうなんだぁ」


 何と言う偶然。これはもしかして、運命の出会いイベント?

 フラグ立ったのかな?

 犬が飛び出す、もしかしてまた死ぬの、急転直下大野君と大接近と言うイベントで混乱気味だった思考回路が少し落ち着きを取り戻した。


「あれ? さっき私の事、佳奈ちゃんて言った?」

「あっ、ごめん。慌ててたもんで、つい頭の中で呼んでいる呼び方で」


 頭の中では下の名前呼びって……。


「ううん。いいよ。佳奈で」


 そんなにたくさん話をする機会が無かった大野君と話をするチャンス。しかも、心の中では下の名前呼び。今、ここで勢いに乗って!


「その代わりなんだけど、私もひかるくんって呼んでもいいかな?」

「もちろん」

「あっ、それとあの子犬、かわいいね」


 本当は猫派だけど、子犬がかわいいのは事実だ。


「今度、触らせてほしいかな」

「いいよ。いつがいい?」

「今度の土曜なんてどうかな?」

「じゃあ、うち来る?」

「えぇーっ、押し倒す気じゃないよね?」

「そんな事しないよ」


 真っ赤な顔であたふたする輝君、かわいい。


「じゃ、じゃあ、ここで待ち合わせして、河原で散歩ってどうかな?」

「いいよ」


 速攻で受けた。

 今日、告るのは突然すぎる。

 次に会った時はちゃんと輝君に告白しよう。

 浜路姫に言った言葉「自分の気持ち、ちゃんと伝えないでどうするのよ」を自分に向かって私は言った。

 この世界が一番私にとって幸せな世界。

 そんな予感が私を包んでいた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

拙い文章だったと反省しております。

そんなまずい点も含めて、感想等いただけるとありがたいです。


読んで下さる方がおられたからこそ、なんとか完結できました。

繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ