長老が描いた人相書き!
夜な夜な開かれている怪しげな旅籠の賭博場。
そして、そこにいるはずの敵国の女間者を捕まえるため乗り込んできた役人たち。
そんな人いたっけ?
役人たちと同じように、私も周りを見渡して見る。
賭博場の男たちも、客の男たちも同様にその女間者を探して、辺りを見渡している。
やがてみんなの視線は一か所に収束していった。
そう。その場にいる女は私だけだった。
でも、姫を探しているなら分かるけど、敵国の間者と言うのなら、私じゃない。
なんて思っていると、役人が私の前までやって来て、手にしている紙と私を見比べて言った。
「この女に間違いない!
捕らえろ」
「ちょっと待ってよ。
何の事よ」
「これを見ろ!
敵国の女間者の人相書きだ。
どう見ても、お前だろ」
役人が差し出した人相書き。その絵には見覚えがあった。
まとめた長い髪に刺している簪は髪と共に細部まで描かれている。
ほんの少しだけ垂れてはいる大きな瞳も丁寧に描きこまれていて、京○ニレベルのクオリティ。
「佐助!
どう言うことよ」
「姫様の顔なんて、ほとんどの人は知りませんから、人相書きがいるんじゃないですか?
それに明地としては姫様とは言えないでしょうから、敵国の女間者として探しているんでしょう」
「そんな事言ってるんじゃないわよ。
この絵、あんたの里の長老が描いた私の顔じゃんか!」
「私の里は情報収集が得意ですから、人相書きを依頼される事はよくある事で、普段は密かにその人物に近づき、隠れて人相書きを描くのですが、今回は飛んで火にいる夏の虫だった訳で」
「じゃあ、あの時すでに長老は私の人相書きを頼まれていたって事?」
「たぶん、情勢から判断して、依頼が来ると予測されていたのかと」
「何をごちゃごちゃ言っている。
来い!」
そう言うと、役人の一人が私の腕を掴んで引っ張った。
私は前の世界で剣道はやっていたけど、柔道とか護身術とかはやっていない。
至近距離で刀も抜けない状況では対抗する術がない。
「俺の女に何をする!」
緋村がそう怒鳴りながら、役人の顔を思いっきり殴り飛ばした。
ぶっ飛ぶ役人。
当然、場は混乱状態に陥った。
緋村を捕えようとする役人たち。その役人たちを次々とぶちのめしていく緋村。
緋村に加勢する佐助。
役人に恩を売りたい賭博場の男たちは役人側に加勢して、大乱闘が始まった。
そんな中、一人静かな世界にいる私。
私たちの身分がばれる事を避けるための方便。そうだと思いつつも、緋村が放った”俺の女”発言が私の思考回路を麻痺させていた。