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関白 葉芝秀吉?

 犬坂の力で里見の館に居座ってひと月。

 世間では兵糧米を配った事で、浜路姫の評判はうなぎ上り。

 そして、葉芝は毛里との間に停戦を成立させると一気に反転し、背後に迫っていた芝田と静賀岳しずがたけで決戦に及んだ。

 この戦いに敗れた芝田は本国に敗走したが、そもそも疲弊した本国で兵力を立て直すこともかなわず、追撃して来た葉芝の前に敗北を喫した。

 これで、この国の皇帝の親族であった明地も、筆頭と言われた芝田も滅んだのである。

 里見の館にいた芝田の兵たちが芝田滅亡の一報を受けるや否やで姿を消すと、偽の姫も慌ててその後を追って姿を消した。

 今、この里見の館にいるのは姫に八犬士たちと松姫、梓、あかね、佐助に私である。


「葉芝様が到着されました。

 なお、姫様がご懸念されておりました民への乱暴狼藉ですが、民の安寧を願う葉芝様の軍とあって、一切起きておりません」


 佐助が報告に来た。


「そうですか」


と、姫が言い終えた時、葉芝が一人でやって来て、姫から少し離れた場所に平伏した。

 それと同時に、姫が犬坂に目配せした。


「お顔をお上げください」

「お久しぶりです。

 浜路姫様」

「先日は贈り物をいただき、ありがとうございました」

「本来、姫様がおわすべきこの館でお会いできてうれしい限りです」


 今までのような頭の中の思考が駄々洩れになって来ない。姫もちらりと犬坂に視線を向けたが、犬坂は曇った表情で首を横に振った。どうやら葉芝には犬坂の力が通じないらしい。

 この男、人たらしと言われているが、それには心中が読まれない必要がある。それだけに心の中の防御力も高いのかも知れない。


「逆賊明地、芝田亡き今、ぜひとも姫様に帝位におつき頂きたいと考えております」

「ありがとうございます。

 ですが、その場合葉芝様はどのようにされるのでしょうか?」

「私どもは姫様をお支えいたすまで」

「そうですか。

 ありがとうございます。

 葉芝様はどのように私を支えていただけるのでしょうか?」

「左様。

 ご承知と思いますが、この国は疲弊しており、立て直しが必要です。このためのまつりごと

 また、南方には植杉、毛里、北條はもちろんその先にも強国が揃っております。特に毛里のさらに先にはこの大陸最強と言われる四曼津しまんずも控えており、軍事も強力に展開していかなければなりません。

 これら国を治めるにあたり必要な全ての権限と八犬士の方々をお預かりし、姫様のお手を煩わせる事なく、私の方で万事やらせていただく事を考えておりまするゆえ、姫様はゆるりとしていただければよろしいかと」

「それはどのようなお立場で?」

「そうですね。

 関白を任じていただければ幸いです」

「なるほど。

 関白 葉芝秀吉かぁ。

 お考えは分かりましたが、明地剣史郎の生死も未だ不明。

 しばし、考える時間をください」

「承知いたしました。

 私、粉骨砕身、姫様のために働かさせていただきます。

 では、本日はこれにて」


 葉芝が部屋を去ると姫が俺と犬坂を指さして、付いてくるよう合図を送って来た。

 廊下に出た姫は少し離れた部屋に入って行った。

 その部屋で姫と向かい合って座る。


「あいつの頭の中は読めなかったって事だよね?

 理由分かる?」

「人を操るのは意思の弱い人間に限られるのですが、読む事ができなかったのは初めてで、理由は分かりかねます」

「うーん。佐助でも尋問してみますか?」


と、姫が言った時だった。障子の向こうに近づく人の気配がした。

 すでに芝田の兵たちもおらず、葉芝は単身で乗り込んできて、さっき引き揚げて行った。

 とすると、俺達の仲間の誰かしかいない。

 俺や姫、犬坂の視線が障子に映る影に向かう。

 女? その影の形はあかねだった。

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