トランプとフェイク
「いいですかい、客人。
これは”とらんぷ”と言う異国の札でねぇ。
“ぽぉおかぁ”と言う賭博では五枚の札で役と言うものを作るんですよ」
私が選んだ旅籠はやはり真っ当な宿ではなく、夜な夜な賭博が催される危ない宿だった。
それも、丁半賭博や花札ではなくトランプのポーカーと言う。
「あ、そこは知ってるので。
ワンペアとか、フラッシュとかね」
「おや、驚きましたねぇ。
このとらんぷと言う異国の札はまだそれほど広まっちゃいないはずだと言うのに、すでにご存じだったとは。
客人、見かけによらず賭博に造詣が深そうだねぇ。
この宿に自ら泊まられたのも、もしやこれが目的で?」
「そうよ。よく分かったわね」
こんな店と思わず選んだと言いたくないし、話を合わせておこうと私はそう言った。
「では、配りますよ」
そう言ってポーカーが始まった。しかも、お金をかけた本当の博打。
少し負けたら、それで終わりにしよう。そう思っていたのだけれど、なぜだか勝ち負けが微妙なバランスで、少しずつお金が増えて行く感じ。
止めるに止められないまま続けている内、緋村がしびれを切らした。
「りなさん、もうその辺で」
「そうですね」
「おっと、客人。
勝ち逃げですかい。
それはいけませんねぇ。
どうです、全額賭けての一発勝負しませんか?」
今にも帰りだしそうな私たちに場の親が言った。
もめ事も嫌だし、ここでの全額を賭けても大したことはない。そう考えた私はその勝負を受けて立つことにした。
「では、全額を賭けての最後の勝負と言う事で」
場の親はにんまりと微笑んだ後、カードを切り始めた。
配られるカード。
エースのペアとクイーンのペア。そして、もう一枚はスペードの5。
5のカードを捨て、新たに手に入れたのはハートのエース。
フルハウス。勝った。そう私は確信した。
「では」
一発勝負。カード1枚ずつの駆け引きは無い。
「フルハウス」
前のテーブルの上に、5枚のカードを並べる。
どうよ。そんな顔で親に目を向ける。
親の前には6のワンペアとクローバーのキングとダイヤの2の4枚。
残りの1枚のカードを手に、親の口角はあがり不敵な笑みを浮かべている。
どう考えても、このカードでフルハウスに勝てる役は無い。
「客人、悪いね。
俺の勝ちだ」
「なんで、そうなるのかなぁ?
その1枚が何だって、私のフルハウスに勝てる役はできないでしょ」
「これが何か知っているかね?」
そう言いながら、親が手にしていた1枚のカードをひっくり返して、私たちにそのカードを見せた。
「ジョーカーでしょ。さっきまで見なかったから、入っていたとは知らなかったけど、それでも私の役には勝てないはずよ」
「じょうかぁ?
これはとらんぷと言う札だよ」
「いや、トランプはこのカード自身で、それはジョーカー。
でもまあ、呼び方はどうでもいいわ。
どうして、それで私に勝てるのよ?」
「ふぇいくだ!」
「何の事?」
「お前さん、この札の遊び方を知っていると言っていたが、ふぇいくは知らないのか?
この札を持っていると、ふぇいくだと宣言できるんだよ。
ふぇいく宣言されると相手の手は全てが嘘となる。つまり、あんたの役は嘘だと言う事になり、俺のわんぺあが勝ちになる」
「どっかの国の大統領かよ!
そんなルール有っていい訳ないでしょ」
「あるものは仕方ないだろ。
そもそもとらんぷと言うこの札は、他の札よりも力があるんだ。
そんな力のあるやつが出てくれば、黒も白になるもんなのさ。
それがこの世ってもんだろ?
えっ、お嬢ちゃんよ」
「力があれば何でも通るなんて、いい訳無いじゃない。
他の札に代わって、お仕置きよぅ!」
私がそう言ったので、緋村も佐助も戦闘モードに入り、ここで乱闘? と思った時だった。
「ここに敵国の女間者がいると聞いて来た!」
扉を開けて、賭博の場に入って来たのは役人たちだった。