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犬坂毛野

 化け猫の妹猫の妖力を封印した事で人々は元に戻った。

 このおかげで明地との対決を訴える重臣たちはいなくなり、松姫の方針に従う事で家中は統一された。

 そして、俺、犬江に姫、梓の四人で申世界に向かう事になった。

 松姫は不満そうではあったが、さすがに明地との戦いが起きるかも知れないとなっては、領国を離れる訳にも行かず、申世界の用事が済めば戻って来ると言う事で納得してもらった。

 いや、なぜ俺が自分の行動を決めるのに松姫を気遣わなければならないのか、理解できていないのだが。

 あと、俺からしてみれば恋敵のような佐助も、明地の動きを探る必要があるだろうと言って、猿飼の下に置いておくことにしたのだ。

 と言うのにだ。梓は姫と並んで歩いていて、何やらよそよそしいままだ。


「梓ちゃん。

 疲れていないか?」


 居ても立っても居られず、意味のない言葉をかけてみた。

 梓は俺にちらりと振り向き、軽く会釈だけをして、すぐに正面に向き直った。

 梓まで、姫と同様、俺に冷たくなってきた?

 そんな気がすると、ちょっと苦しい。

 いや、姫は冷たくなったのではなくて、あれは別人だったか。


「梓、緋村の所に行ったら」


 俺に冷たい別人のその姫が梓に言った。

 なんだか、天使に見えるじゃないか。


「で、で、でも、私は……」


 梓が途中で話すのを止めた続きが気になっしまう。

 私は佐助の事が好きだから。そんな言葉が脳裏に浮かび、俺の胸を締め付ける。


「佐助の事は……」


 今度は姫が何か梓に言った。途中から梓の耳に近づけて喋ったため、そこまでしか聞き取れない!

 やはり、佐助の名が出てくるのか!


「本当にですか?」


 そう言った梓の横顔が輝いている。

 姫は何を言ったんだ?

 佐助の事は私が呼び寄せてあげるからとか。

 佐助の事は今は忘れていたらとか。

 なんて、ぐちぐちと思考が沈んでいる俺のところに梓がやって来た。


「緋村様。

 横にお並びしてよろしいでしょうか?」


 飛び上がりそうなくらいうれしいが、それは隠して、落ち着いて返す。


「ああ。いいよ」


 横に目を向けると、梓の笑みがそこにある。

 なんて幸せな瞬間。だが、心の奥から沸き起こる疑念。佐助とはどういう関係なのか?

 聞きたくて、聞きたくて仕方が無いが、そんな事できやしない。

 何もないかのように黙って、前を見て歩く。

 そんな俺の視界にまばゆい光が映った。


「姫様。八犬士が!」


 その先の集団を指さしながら、犬江が言った。

 そこにいたのは旅芸人の一座らしい。

 最後の八犬士が時折居場所を変えていた理由はこれだったんだ。

 そして、いつものように犬王の剣の鞘に取り付けられていた宝石、いや門巣断亜母生篭が鞘から飛び出し、一座の中の一人に向かって行った。

 どんな奴か? その軌跡の先に立つ人物を見た時、俺は動きが止まった。

 そいつは侍でもなければ、ごつい肉体派の男でもなかった。そこにいたのはきれいに着飾り、化粧をした女だった。いや、そいつが女な訳はない。きっと女形おやまだ。


「わぉぉぉぉぉぉぉん!」


 他の八犬士たちと同様、雄たけびを上げたかと思うと、一座を抜け姫の前に走り寄って来た。


「姫様。私、犬坂毛野、姫様に忠誠を誓わさせていただきます。

 何なりと、ご命じ下さい」

「ありがとう。

 犬坂さん、よろしくね」


 犬坂のいた一座の者たちは呆気にとられているが、忠犬となった犬坂にはどうでもいい事なんだろう。


「あなた、人の心を操れたりする?」

「はい。私の力は人の心を読む事と、操る事です」

「おお。操るのはあの化け猫の妹猫の力だと思うんだけど、元々の力が人の心を読むだっただなんて、最強の組み合わせね。

 だったら、お願いしたいことがあるんだけど」


 そう言って、姫が犬坂に命じたのは二つだった。

 一つ目はこのまま旅芸人の旦開野あさけのとして、全国を巡り、世間の人々の考えを読んで行ってもらう事。

 二つ目は戦争は嫌だと言う意識を植え付ける事。

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