ダウジング?
「はい。梓」
旅籠を出たところで、どこから取り出したのか分からないが、姫は梓に奇妙な棒を二本渡した。
金属でできたその細い棒は直角に折られていて、短い方は手のひらを一回り大きくしたくらいで、長い方は前腕くらいの長さだった。
「佳奈、これは?」
「これはダウジングって言って、この棒の先が探し物の場所を指し示すの。
で、こうやって持つのよ」
そう言って、姫が梓の両拳を軽く握りしめさせ、出来た指の輪の部分に金属の細い方を差した。
梓が力を込めて握りしめていないため、その金属の長い方は時折ゆらゆらと揺れている。
「私が神様に質問する係ね。
で、梓が神の声を聞く係。
分かった?」
「神の声を聞く係なのですか?
私はこれでどうしていたらいいのでしょうか?」
「力まず、そうやっていたらいいの。
行くよ」
そう言うと、姫は梓を一度しっかりと見つめた。
「化け猫の妹猫がいるのはこの道のどちらですか?」
いきなり本題を姫は質問した。
そんな事にその棒が答える訳は無い。
なんて、思っていた俺は信じられないものを見た。
ゆらゆらとしていた二本の金属の先が共に右を差したのだ。
「じゃあ、行くよ」
姫は右に進んで行き、次の辻で立ち止まった。
「化け猫の妹猫がいるのはどちらですか?」
再びゆらゆらと揺れていた金属は真っすぐを差して止まった。
「佳奈。これは何なんですか?
本当に差しているんですか?」
棒を持っている梓自身も驚きの表情だ。
「だと思う。
だって、私は梓を信じてるもの。
行くよ」
そう言って、姫はまっすぐ進んで行った。
これを繰り返す内に、ある屋敷にたどり着いた。
「ここかあ」
そう言って、姫は門を見上げているが、この家の中に化け猫の妹猫が本当にいるなんて、信じられない。
「梓はどう思う?」
「わ、わ、私は……」
梓だって信じられないのだ。それは当然の反応。
そう思っている俺達の前に佐助が姿を現わした。
「姫様。なにゆえここに?」
「そう言うあんたは何してたの?」
「そりゃあ。化け猫の妹猫を探していたんじゃないですか」
「なるほど。で、優秀な忍びのあなたは、私達より早くここを見つけていたってことね?」
「も、も、もちろんですよ」
正直俺としては驚きで、まだ信じられないでいる。
「姫様。本当にその棒で神の声が聞けるって事でいいんですね?」
「それは梓が優秀だからよ」
俺の問いに、姫はそう答えた。
梓が優秀。それは少し俺としては何だか嬉しい気がする。
「ねっ!」
姫はそう言って、梓に微笑んだが、当の本人は信じ切れていないらしく梓の表情は強張ったままだ。
「で、佐助。
優秀なあなたなら、ここの中の情報ももうすでに持っているんだよね?」
「も、も、もちろんです」
どもり気味ではあったが、ちょっと胸を張って自慢げだ。
「なら、話してくれる」
「わ、わ、分かりました。
ここは猿飼の家老の屋敷で、化け猫の妹猫はここの娘に成りすましています。
で、本物の娘は納屋に押し込まれています」
「なるほど。
じゃあ、行きますか。
佐助、門を開けなさい」
姫の言葉に、佐助は門を飛び越え、内側より鍵を外すと、扉を引き開いた。
「化け猫の所まで案内しなさい」
「はい」
佐助が建物の中を進んで行く。
中にいた小者たちや家老の家臣たちが行く手を遮ろうとするが、刀の鞘を鳩尾に打ち込み、犬江と俺で排除していく。
やがて、一つの部屋にたどり着いた。
「こちらです」
佐助の言葉に姫がその部屋の障子を開けた。
部屋の中には10歳くらいの童女がいた。
「なんですか、みなさんは」
ちょっと驚いた顔で俺たちにそう言った。
特に化け猫っぽくはない。
本当にこの子が化け猫に間違いないんだろうな。
「さあ、梓行くよ。
化け猫の妹猫はだれですか?」
姫の言葉に梓が構えた。
その手に持つ二つの金属の棒はゆらゆらと揺れたかと思うと、二本ともが確かにその童女を差した。