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化け猫の妹猫 再び?

「さてと、しかし困りましたねぇ」


 猿飼の城を出て、旅籠に入るなり言った姫の言葉だ。


「それは明地との戦いがですか?

 それとも、八犬士たちを置いて行く事がですか?」

「緋村殿。

 他の八犬士はおらずとも、私がおれば十分と言うものです。

 何の心配がございましょうか」


 自信過剰の忠犬 犬江が言った。


「一度は消えたはずの化け猫の妹猫の臭いがぷんぷんするんだよねぇ」

「どうして、そう思われたのですか?」


 それは俺の率直な疑問だ。


「あの場に猿飼の重臣たち、十名はいたよね。

 誰一人、迷いも見せなければ、戸惑いも見せず、他の人の意見をうかがうような素振りもない。

 そして、松姫の意見にも不満を漏らす。

 玉姫を玉姫と受け入れなかったあの者たちと似た雰囲気があったのよ」

「なるほど。

 ですが、確証はないんですね」

「そう。

 しかも、もしそうだったとしても、あの猫が誰に化けているのかが分からないと手の施しようがない」

「そいつも見つけて私が斬り捨てましょう」

「犬江さん。そうもいかないんですよ。

 あの化け猫に操られた者たちはその化け猫が死んでも、元に戻らない。

 唯一の手は、化け猫を探して封印する事なんです」

「佐助!」


 俺は佐助に調べさせようとしたが、佐助がいない。

 いや、気づけば梓もいなかった。


「あ、なんですか。緋村さん」


 佐助が旅籠の扉の外から姿を現わした。そして、続いて梓も姿を現わした。

 二人で隠れてこそこそしていた。それは俺にとって胸中穏やかじゃない。


「化け猫の妹猫が誰かに化けているんじゃないかと姫様が言っている。

 それを探れないか?」

「分かりました」


 佐助はそう言い残すと、旅籠を出て行った。これで化け猫が誰かに化けていたなら、その答えが分かるかも知れないし、梓から佐助を遠ざける事もできる。まさに一石二鳥だ。


「緋村。佐助は当てにならないわ」


 佐助の気が近くから消えた事を確かめると、姫は俺に言った。

 その理由を聞こうとした俺より早く梓が反応した。


「ど、ど、どうしてそう思われるんですか?」


 佐助の事を当てにできないと言われた事が気に障ったんだろうか、姫に詰め寄っている。そこまで、佐助の事が大事なのか!


「梓。私はあなたを信じる」


 姫はそう言って、梓の両肩に手を置いた。


「どう言うことです?」


 姫にそうたずねてみたが、姫は何の反応も示さず、梓を見つめている。


「ど、ど、どう言うことですか?」


 遅れて俺と同じ事を梓が姫にたずねた。


「梓は猫派だよね。

 私も猫派。

 それだけに化け猫になった猫ちゃんってかわいそうじゃない?

 また、元に戻してあげたいの。

 猫派の二人なら、その居場所を勘で探れるんじゃないかなって」


 確かに姫たちは、八犬士のいる場所の方向と距離がぼんやりと分かるとは聞いている。

 だが、猫派が猫の居場所が分かるなんて聞いたことがない。


「で、で、でも、どうやって元に戻すんですか?

 戻し方を知っているんですか?」


 梓は猫派の力を信じたのだろうか。

 姫に突っ込んだのは元の猫への戻し方のところだった。


「梓。

 大丈夫。そこは私に任せてくれていいから。

 一緒に猫ちゃんを探しましょ。

 ねっ!」


 梓が姫をじっと見つめたまま、頷いた。


「緋村、犬江さん。

 行くよ。化け猫退治。私じゃできないから」

「姫様。お任せください」


 犬江は忠犬だけあって、すぐに承諾したが、俺には大いに疑問がある。

 どうして、猫派の勘だけで、化け猫の妹猫の場所が分かるのか。

 が、そこを突っ込むと姫はともかく、梓を信じていない事になってしまう。

 ぐっとこらえて、もう一つの疑問を姫にぶつけてみた。 


「あの化け猫の妹猫であれば、姫様の腕をもってすれば、退治するのは容易なのではないのですか?」

「ああ。私が退治するのならね。

 でも、嘘か本当か分からないけど、あれを退治してもあいつの術にはまった者たちは元に戻らないばかりか増殖するって言ってたでしょ。

 だから、あいつを吸収してしまえば、術にかかっていた人たちも元に戻る。

 それは偽の玉姫の時に証明されている」

「浄化されたとか言ってませんでした?」

「ともかく、行くよ。

 梓。お願い」


 そう言って、姫が梓に手を差し出すと、梓がその手をつないだ。

 その梓の横顔は何だか晴れ晴れとして輝いて見える。

 さっきまで、おれの恋敵は佐助だったはずだが、なんだか姫が恋敵な気がしてしまう。

 そんな二人だった。 

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