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相討ち

「我らが捨て石だと。

 ふざけたことを申すな!」


 姫の言葉に溝小が激しく反発した。


「我らはお前たちの抹殺を命じられている。

 しかも、お前たちは江華の里とやりあり共倒れと言う役を演じてもらってな」

「いやあ、だってあなたたちが私たちに勝てる訳ないでしょ」

「ふふふ。

 それはどうかな。

 確かに我らだけならな」


 溝小がそう言った時だった。

 溝小の辺りから、いつものあの禍々しい気が立ち上った。

 その奥には船虫がいる。すなわち、やはり船虫があの妖だ。

 安堵したかった俺はあの妖は船虫。そう自分で自分を納得させようとしていた。


「姫様」


 諸刃の剣を抜刀し、溝小の奥に潜む船虫の次の一手に警戒しようとした時だった。

 溝小はもちろん、俺達を取り囲んでいた兵たち全てが崩れ落ちるようにして、地面に突っ伏し、禍々しい気も消え去った。


「なに?」


 姫の言葉に、八犬士たちが状況を調べようと動き始めた。

 辺りに残存しているかも知れない敵勢力を探す者。

 崩れ落ちた兵たちの生死を確かめる者。

 すぐに八犬士たちの報告が始まった。


「周囲に敵はいません」

「彼らは生きております。

 ただ、眠っているようです」

「眠っている?」


 姫のその言葉にいち早く反応したのは佐助だった。


「それが姫様や私が大猿の家で眠らされた原因ですよ。

 同じ妖の術」


 佐助は梓や松姫の場所に立っていた。


「なるほどねぇ」


 よくは分からないが、姫は何か納得したらしい。が、俺は納得できない事がある。


「佐助、お前はなんで里の中を調べもせず、そんなところにいる」

「いやだなぁ。緋村様。

 このお二人をおいて、姫様の下に駆け寄られるから、私がここでお守りしていたんじゃないですか」


 俺はついつい反射的に飛び出してしまっていた。姫は自らの剣の腕も確かだし、八犬士もいる。佐助の言う通りで、俺は梓と松姫から離れるべきではなかった。だが、佐助がそこにいる事はすんなりと受け入れられない。


「だからと言って、お前がそこにいる理由はない」


 梓と松姫のところに駆けよると、佐助の腕を引っ張って、二人から引き離した。


「なんか、あんたたちの関係ややこしくなったの?」


 そんな事を言いながら、姫は俺達の所までやって来るとしゃがみ込み、顔を伏せ、少し震えている梓の手を取って立ち上がらせた。


「大丈夫? 梓」


 姫は梓にもう大丈夫だと言いたいんだろう。そう言うと、梓をぎゅっと抱きしめた。

 それは俺の仕事だろ! と言いたいところだが、何食わぬ顔で二人を見つめる。


「姫様。そんな事をしているより、さっさとここを立ち去った方がよくないですか?」


 ちょっと強い語気でそう言ったのは佐助だ。もしかすると、相手が女の姫であっても、梓を抱きしめるのが許せないのか? だとしたら、こいつはかなり独占欲が強いんじゃないか? そんな全く生産的でない思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。



 佐助の進言通り、その場をさっさと離れた俺達だったが、その後驚くべき情報を入手した。

 ただ眠らされただけだったはずの溝小たちは兵ともども全滅しており、その理由は謀反を企てようとしていた江華の里と壮絶な戦いを繰り広げ、両者相討ちで全滅したと言うものだった。

 そして、その全滅した溝小側の遺体の中に船虫の姿もあったと言う。

 だとするなら、あの禍々しい気を放つ妖の正体は誰なのか?

 船虫が選択肢として消えた後、俺の頭の中に一人の有力な人物の顔が浮かぶ。が、その嫌な考えを振るい落とすため、船虫が亡くなったことで、もうあの妖に遭う事も無いのだ。

 そう自分を納得させながら、姫たちの後をついて歩いていた。

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