表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/156

遭遇 葉芝秀吉

 新たな八犬士を迎え、次の八犬士の気配を目指し、多岐川の領国を俺たちは目指している。

 多岐川も芝田と同じで、その領国は決して繁栄しているとは言えない。

 それだけに、葉芝の領国で十分な食事をして、力を蓄えて国境を越えたいものだ。


「姫様。このまま行くと、夜には多岐川の領国にたどり着けるかも知れませんが、多岐川の領国では旅籠とかも期待できないと思われます。

 今日はこの宿場町で宿を取りませんか?」

「そうしますか」

「仰せのままに」

「御意」


 いつもの通り、忠犬たちは姫に賛同した。


「さて、姫様。

 お宿探しは得意でしたよね?」

「緋村、しつこいと嫌われるよ」


 なんて会話を交わしながら、めぼしい旅籠を探す。

 葉芝の領国とあって、人の数だけでなく、荷を積んだ荷車も多く見かけ、物流も活発に動いているようだ。

 そんな事を考えながら、旅籠を探していた時、事件が起きた。


 荷を結んだ紐が緩んだのか、路地を曲がって現れた荷車の荷が崩れた。


「危ない!」


 離れすぎていて、俺にできるのはそう言葉を出す事くらいだった。

 が、続いて俺の視界にそれでは済まされないものが映った。崩れて行く荷の先に数人の子供の姿があった。

 このままでは下敷きになる。

 さすがに無理と分かっていても、足が一歩動いたが、そこで止まった。

 大柄な男がどこからともなく駆け寄り、子供たちに覆いかぶさったのだ。


 ドドドドドサッ。


 いくつもの荷が荷車から落ちて、地上に落下し、そのいくつかは男を直撃していた。

 土埃がまだ収まらない中、男は子供たちに覆いかぶさったままだ。


「大丈夫ですか?」

「お怪我はありませんか?」


 荷車を押していた男たちが子供たちを庇っている男に駆け寄った。


「ふぅ。

 君たち、怪我はないか?」


 起き上がった男が子供たちに言った。

 どうやら、男もそれほどの痛手は受けていなさそうだ。


「あ、あ、ありがとう」

「大丈夫です」


 半べそではあるが、子供たちの方も怪我は無さそうだ。


「荷崩れするのは積みすぎなんじゃないのか?」


 男は荷車を押していた男たちに向き直り、諭すように言うと、荷車と荷を調べるかのようにぐるりと荷車を一周した。


「すみません」

「本当に大丈夫ですか?」


 大柄な男に荷車を押していた男たちは平謝りだ。


「過積載で速度を出して曲がると崩れるわ。

 しかし、子供たちが無事で何よりだけど、あの男の人も無事だなんて、体をかなり鍛えてるんじゃないかなぁ」


 姫がそう言った時、大柄な男がこちらを向いた。俺はその顔に見覚えがあったが、最初に反応を示したのは犬山だった。


「姫様。あれが葉芝秀吉様です」

「サル?

 なんで総大将が戦場を離れてるの?」

「お話をされますか?」

「そうねぇ。

 浜路姫としてではなく、旅の隠居として話したいかな?」

「なんで、そんな若い方が隠居なんですか!」


 意味不明な発言に、俺は反応した。


「胸が無いから、もう娘じゃなくて、ご隠居さんなんじゃないですか?」

「佐助、口縫ってあげようか?」


 なんて会話に割って入ったのは葉芝だった。


「おお、道節。久しいの。

 それはそうと、こちらの方々は?

 おや? これはこれは、亡くなられたはずの緋村将軍ではないですか。

 生きておられたのですね。それはなによりです。

 あなたのような豪傑がご存命とは、頼もしい限り。

 とすると、こちらのお方は浜路姫様ですな?」

「いいえ。

 私は越後のちりめん問屋の隠居です」


 姫の意味不明な言葉に、葉芝が一瞬唖然としたが、すぐに笑い飛ばした。


「はっはっはっはは。

 なるほど、亡くなったはずの身ゆえ、正体を明かせぬと言う事ですな。

 その奇抜なお姿も身分を隠すため。

 なるほど、聡明なお方じゃ」


 葉芝は姫のセーラー服姿を勝手に解釈し、視線をその服装に向けないでいるが、俺は知っている。葉芝は無類の女好き。特に高貴な女が好きなのである。

 とすると、欲望を抑え、姫のスカートなるものからのぞくすらりとした足に視線を向けずにいる事は、葉芝には拷問を受けているに近い状態のはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ