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忠犬

「梓ちゃんは、猫好きなんだって?」

「はい。松姫様」

「私も猫派」

「おっ、じゃあ、三人とも猫派なんだ!」

「佳奈、それ言っちゃっていいんですか?

 仮にも八犬士を率い、犬王の力を扱われる方が」

「梓、細かい事気にしてると大きなことを見失うよ」

「そうなんですか?」


 あの日以来、松姫と梓は仲良くなり、今や俺の両腕に纏わりつく関係でなくなっている。

 それはそれでちょっと寂しいが、梓に親しく語り合える友人が一人でも多くできるのはいい事だ。そう納得し、不満な素振りを見せず、三人の後をついて行く。

 姫に聞いた話では、梓が松姫を守った夜、松姫が梓に謝意を示し、お互いが心を開いたらしい。


「女の子たちの楽し気な会話を聞きながらの旅っていいもんですね」


 そう俺に語り掛けて来たのは犬川だ。


「そうですね」


とは答えたものの、俺としては両腕にムニュッの方がよかったのが、本心だ。


「緋村殿。

 しかし、何か変だと思いませんか?

 松姫が襲われた時、緋村殿も禍々しい気を感じたんですよね?」


 俺は静かに頷いて見せた。


「犬塚殿も犬飼殿も、あの気は姫様が化け猫と対峙した時に感じたものと同じような気がすると言っています。

 あれが妙椿が放つ気だとすると、妙椿は我々のすぐ近くにいるのではないでしょうか?」

「うむ。それは私も気にしているのだが、全く心当たりがない。

 そもそも妖が人間の姿をしている時には、その力を感じる事ができないらしいし」

「今回、姫様は偽物を見破っておられたようですので、攻撃を防げましたが、油断している時ですとお守りするのも容易ではなさそうですね」

「いやあ、あの姫様、なかなかですよ。

 大丈夫なんじゃないでしょうか」

「ひ、ひ、緋村。

 私の事、褒めたって、何も出ないんだからねっ!」


 先を歩いていた姫が反転し、俺の下にやって来てちょっと威張りん坊気味に言った。

 元の姫だ!


「姫様っ!」

「な、な、何なのかな?

 それに、あれは私がやった事だけど、私じゃない訳だし」

「私は神に誓って、姫様をずっとお守りいたしますっ!」

「い、い、いい心がけね。

 ずっと私の傍においてあげるから、感謝しなさいよ!」

「ははっ」


 俺は姫の前で跪いていた。


「そ、そ、それに私にだってできる事があるんだらね。

 私は王毘笥わんびいすの」

「ぶっぶぅー。

 二分が経ちました。と言うか、余計な事言わないの!」

「姫様。今のは何なんですか?」


 初めて元の姫が戻って来た姿を見た八犬士たちが、姫を取り囲んだ。

 そして、少し離れたところで、梓と松姫も呆気にとられている。


「ああ、気にしないで。

 あれが本当の浜路姫みたい。

 私はこの世界に麒麟を呼ぶために、八房に連れて来られただけだから」

「承知しました」

「そう言う事でしたか」


 さすが忠犬たちだ。あっさりと姫の言葉を受け入れたし、あの全く違う人格にも異を唱えない。


「姫様、先ほど王毘笥について、何か語ろうとしていたようですが」


 俺も聞きたかったそこを犬飼がたずねた。


「あ、気にしないで」

「分かりました」


 拒絶する姫に、これも忠犬はあっさり引き下がった。

 全くの忠犬ぶりだ。

 ともかく、あの姫は何かを元の姫から聞き出しているのだろう。

 犬王の力を使えし者で、里見家の姫である。元の姫は犬王の力に関する全てを知っていたとしても不思議ではない。王毘笥もしかりである。

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