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浄化?

 結局、姫と秀満との間は険悪なまま面会は終了した。

 俺たちが捕らえた兵と化け猫の妹は、今はこの城の牢に投獄されている。

 そして、俺達は城の一角にある玉姫の御殿の一室を間借りしている。

 姫は明地からして立場が微妙である事、秀満と険悪な関係である事などから、明地の城から離れる事を勧めたが、梓が体調が悪いと言ったため、この場に留まる事になった。

 できそこない。

 秀満の放ったあの忌々しい言葉が、梓の心を傷つけたに違いない。

 こんな日は、梓を抱きしめて、その傷を癒してやりたいところだが、俺はむさい男たちと同部屋で、それはできやしない。


 俺は今、明地の動きに気を配りながら、ここであったことを頭の中で整理している。

 化け猫の妹猫は、本当か嘘かは分からないが、松姫を襲った女の事は知らないと言っている。だが、あの女が一瞬放った禍々しい気からして、あの女も妖である可能性が高い。

 しかも、あの禍々しさは姫が化け猫と戦っている時に感じたものと同じっぽい。

 だとしたら、あれこそ妙椿?

 妙椿と化け猫が連携していてもおかしくはない。化け猫が妙椿の飼い猫だったんだとしたら、犬ほど忠実でなくても、行動を共にする可能性はある。

 だとして、妙椿はなぜ松姫を狙う。


「うーん。分からん」


 そう声を上げて、思考を停止させた時、人の気配を感じた。

 その気配が突如湧いたかのように感じたのは、俺があまりにも妙椿と化け猫の事を考える事に没頭し過ぎていたためだろう。

 これでは警戒がおろそかになってしまう。

 反省し、感じた人の気配の動きに注意を払う。

 ゆっくりと廊下を進んで来る。

 やがて、その気配は俺達の部屋の前にたどり着いた。

 月光が障子に映し出すその姿。

 梓?

 もしかして、また逆夜這い?

 いや、それはまずいだろ。

 この部屋には他の男たちがいる。

 気配を消し、ゆっくりと立ち上がり障子に向かって行く。

 梓らしき人影は俺達の部屋の前で止まる事はなく、ゆっくりと廊下を進んで行き、俺の前を通り過ぎた。

 静かに障子を開けて、廊下を歩む人影に目を向けた。


「緋村様?」


 俺に気づき振り返った人影は、やはり梓だった。

 今日の秀満の言葉で傷つき、眠れぬのかも知れない。


「どうした、こんな夜更けに」

「ちょっと」


 梓はそれだけを言った。


「おいで」


 俺の言葉に、梓が嬉しそうに微笑んだ。

 廊下に腰かけ、二人で夜空に目を向ける。


「何か言いたいことでもあるんじゃないのか?」

「ううん。

 緋村様とこうしていられるだけで、私は幸せです」

「そうか」


 そう言って、梓の頭を撫でる。


「にゃぁぁぁぁ」


 どこかで猫の鳴き声がした。

 化け猫?

 そんな思いで辺りを警戒する。


「どうかされました?」

「ああ。猫の鳴き声がしただろ?

 もしやあの化け猫じゃないかと」

「ほら、あそこ!

 猫がいますよ」


 梓が目の前に広がる庭の先、塀の上を指さした。

 そこには一匹の猫の姿があった。

 その猫は塀の上をてとてとと歩いたかと思うと、塀の向こうに姿を消した。


「猫ってかわいいですよね」

「そうだな。犬は忠実すぎるしな」

「それはもしかして、八犬士の皆さんの事ですか?」

「いや、は、はははは」


 笑ってごまかすしかなかった。




 そして、次の日、あの化け猫妹の姿は忽然と消え、兵士たちも正気を取り戻していた。

 明地の者たちはその事に少し騒いでいたが、姫は


「浄化でもされたんでしょ。

 明地の事に興味無いし。

 あ、でも浄化ではなく、吸収かなぁ」


と、何か知っていそうで、そうでもなさそうな事を言って、明地の城を出てしまった。

 当然、八犬士たちは


「仰せのままに」

「お供いたします」


と、忠犬ぶりを発揮していた。

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