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究極の選択

「みんな。偽物玉姫を捕まえるよ!」


 本当に玉さんが偽物だと言う確信があるのか、それとも敵兵たちの戦意を削ぐためにそう言っているのか知らないが、姫はそう言った。

 その言葉で戦いが始まった。


 無敵の八犬士とは言え、殺すな、大技使うなと言われると、ただの乱戦でしかない。

 俺は諸刃の剣を鞘に戻し、敵兵の刀を奪いに向かう。

 刀身分、攻撃範囲が長い敵が有利だ。

 襲って来る刀身をかわしつつ、敵兵の懐に飛び込み、鳩尾に拳をねじ込む。


「ぐはっ」


 顔を歪め、力を失った敵兵の手から、刀を奪い取る。

 ここからが俺の見せ場。

 見ていてくれ、梓。

 ここで梓の名が?

 なんて思いを振り払い、目の前の敵兵を倒していく。

 そんな時だった。


「緋村様ぁ。

 松姫が」


 背後で梓の声がした。

 振り返ると、見知らぬ女が手にした短刀を松姫に振り下ろそうとしている。

 その女の胸のあたりに梓がすがりつき、動きを封じようとしている。

 松姫はと言うと、突然の出来事に足がすくんでいるのか、その前で呆然と突っ立っている。

 このままでは松姫はその女の餌食だ。

 いや、その女は怒りの表情で視線を梓に向けている。

 邪魔する梓にその短刀が向けられるのは間違いない。


「梓!」


 目の前の敵をそのままに、梓の下に駆けつけようと俺は反転した。

 その瞬間、さっきまで対峙していた敵兵が俺の背に向けて、刀を振り下ろそうとする姿が目に入った。

 そして、目の前では見知らぬ女がすがりつく梓に向けて、短刀を振り下ろす姿が。


 背後には自分の命を狙う刃が。

 前には大切な者の命を狙う刃が。

 究極の選択の筈だが、迷わず俺の体は梓に向かっていた。


 キィィィン!


 背後でそんな音がしたのを俺は意識の片隅で聞いた。

 誰か仲間が俺の背後を襲う刃を受け止めてくれたのだろう。

 そして、目の前の梓はと言うと、振り下ろされた短刀が梓を襲う。

 間に合わない。

 そう思った時だった。

 背筋が凍り付いた。

 女の所から発せられる禍々しい気。

 女は振り下ろしていた短刀を止め、驚きの表情で俺を見た。

 きっと、俺が目の前に迫っている事に気づいたんだろう。

 もしかして、あの女こそ妙椿?

 そんな思いが脳裏をかすめた時には、禍々しい気は消え去っていた。


「離せ!」


 女は梓を振りほどくと、逃走を始めた。


「待て!」


 女を追う。


「緋村様。

 松姫を」


 背後で梓の声がした。

 あの女は許せない。が、この雑踏の中で女を追うのは難しい。

 まだ、乱戦が収まっていない中、梓たちをおいてはいけない。

 俺は呆然と立ちつくしている松姫の下に駆け寄ると、松姫と梓を道の端まで引っ張って行った。


「ここで、待っているんだ」


 そう言って、再び参戦。と意気込んだ時には、乱戦は終息していた。

 

 乱戦の結果は、当然とはいえ八犬士と姫は無事。

 敵兵たちは地面に転がり、呻いている。

 そして、玉姫は地面に犬田の手でねじ伏せられていた。


「あんた誰?

 見かけが玉さんそっくりなんだから、妖だよね?」

「えぇぇい。離せ。

 私は玉姫に決まっておろうが」

「姫様、さっき松姫と梓ちゃんを襲った女ですが、あれこそ妙椿でしょうか?」

「あん?

 そっかなぁ?」


 姫はあの禍々しい気を感じなかったのだろうか、それとも俺の錯覚だったのか、全く素っ気ない反応しか返さない。


「そんな事より、そいつを縄で縛って、本物の玉さんの所に連れて行くしかないわね。

 佐助。乱戦に加わらなかったけど、ちゃんと働いてよ。

 玉さんの居場所に案内しなさい」

「いるの分かってました?

 八犬士のみなさんがいるのですから、私の出る幕なんてないですよ」


 そう言いながら、近くの建屋の屋根から佐助が飛び降りて来た。


「松姫が襲われたでしょ。

 あの女、誰?」

「見た事も無い女でした」

「本当、大事なところで使えないわね」


 姫は佐助に嫌味を言った。

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