峰うちって!?
そして、俺達は明地領に入った。
相変わらず、明地領内は人の動きが活発だ。
町中ではそれほど広くない道に多く人が行きかっている。
それだけに、梓、俺、松姫と三人並んで歩くのは歩きづらい。
「人が多いから、ばらばらに歩かないか?」
ムニュッ感と別れるのは寂しいが、こんな人が多い所では今のままでは歩きにくい。
「梓ちゃん、だそうです。
離れてください」
松姫にそう言われた梓は、俺の腕に力を込めてしがみつき、松姫を睨み付けている。
私は離れない。そう言う意思表示だろう。
俺的には二人ともに離れてもらいたいのだが、梓にそう言うのは気が引ける。
「浜路姫様」
そんな時だった。聞き覚えのある事がした。
声がした先に目を向けると、数十人ほどの兵を従えた玉さんが立っていた。
「あ、玉さん」
気軽に答えた姫の言葉に、背後の兵たちがムッとした表情になった事に俺は気づいた。
そうなのだ。この人の素性を聞き忘れていたが、松姫と知り合いと言う事から言って、この人物はそれなりの人物のはずだ。
「お久しぶりです。
浜路姫様」
「玉さん、今日は大勢引き連れているんだね?」
「ええ。そうなんです。
みんなが危ないって言うので。
ところで、申世界のお話しを少し聞かせていただけませんか?」
「ええ。いいですよ」
姫の言葉に玉さんはにこりと微笑み、俺達を誘うように反転し歩き始めた。
雑踏の町中。兵の姿を見た民は道の端に寄りかたまり、進路を譲る。
「浜路姫様、どうぞこちらへ」
立ち止まった玉さんがふり返り、姫を自分の横に誘った。
玉さんの横に並ぼうと駆け寄った姫が、玉さんのすぐ前までたどり着いた時だった。
玉さんは自分の横に立つ兵士の刀を抜き去り、姫に斬りかかった。
キィィィン!
そんな甲高い音を立てて、姫がその刀を犬王の剣ではじき返した。
「正体を現しなさい!
お前は何者だ」
姫が玉さんに切っ先を向けたまま言った。
「私は明地の姫 玉に決まっておるであろう。
あっさりと私の一撃で死んでおれば、苦しまずに済んだであろうに。
皆の者、こやつを切り刻め」
玉さんは明地の姫を名乗った。
確かに、明地には玉姫というのがいた。
だが、どうしてその玉姫が姫の命を狙うのか?
やはり、明地の帝位を確実にするためなのか?
そんな疑問の答えを求めるより、今は姫を守ることだ。
すでに八犬士たちは戦闘態勢に入った。
「みんな、ガンガン行こうぜ! なんかで、ここで大技を使うと、民に被害が出る。
大技禁止。あと、兵士たちは何も知らない可能性があるから、殺しちゃダメ。
峰うちで」
「仰せのままに」
「御意!」
八犬士たちが刀身を反転させた。
俺も刀身を反転させる。
反転させた刀身にも刃が!
「姫様、私の剣は!」
「私が守ってあげようか?」
姫が諸刃の剣を持つ俺に嘲笑気味に言った。