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八房と伏姫

「あれ?

 七つの玉を集めた訳じゃないから、龍が出てくるとは思っていなかったんだけど、

拳王って言うくらいだから、巨大な黒い馬にまたがった大きな体格の男の人だと思っていたのに、どちらとも違うのね」


 呼び出した拳王の姿を見た私の最初の言葉がそれだった。


浜路姫はまじひめ、何を訳の分からぬ事を申しておる」


 巨大な犬にまたがった女性が言った。ちなみに浜路姫とはこの世界の私の名だ。


「まあ、よい。

 われがこの世界で姿を現わせるのは180数える間だ」

「180?

 って、三分間?

 カップ麺か、ウルト○マンかっ!」

「話しが通じぬのだが、浜路姫よ、いかがした?」

伏姫ふせひめよ。

 あの者が意味不明な事を申しているのにはちと訳ありでな。

 その事はまたいずれ」


 大きな犬が喋った。どうやらその背に乗せている女性も姫らしい。そう思った時、もしかして私は勘違いしていたのではと言う事に思い至った。


「もしかして、けんおうって拳王じゃなくて、犬王?」

「そなたの意味不明な話はよい。

 浜路姫、早く望みを言わねば、我は姿を消してしまうぞ」

「姫様、早く」


 横で佐助が急かした。


「われら三人を佐助の里に移してくれませんか?」

「たやすい事じゃ」


 伏姫がそう言い終えたと思った瞬間、辺りの闇は霧散し、明るい日の光に包まれた。

 伏姫も犬の姿も無い。

 さっきまで本能寺の境内にいたはずの私たちは、一瞬の内に木々に囲まれた細い道に立っていた。


「えっ?」


 移動するのだから、筋斗雲に乗るとか、あの犬の背に乗るとか、猫の形をしたバスに乗るとか、色々想像していた全てが裏切られた。


「ここは?」

「私の里の入り口です」


 佐助が言った。


「犬王様の力は本当にあったんだな」


 感心しているのは緋村である。


「あれって、何なの?」

「あれは里見義実様がこの国の帝位に就く力の源でもありました犬のあやかし 八房やつふさと伏姫ではありませぬか。

 今でも犬王様の力を備えし方が犬王の剣で呼び出す事で、里見家の力となってくれるのではないですか。陛下から聞かされておられぬ訳がないでしょう」

「頭打って、忘れちゃった!

 てへっ!」


 もうそれがいい。

 そんな思いで、そう言いながら、自分の頭を右の拳でこつんとこつきながらちろりと舌を出した。


「分かりました。

 ようは忘れちゃったと言う事ですね。

 その話は私の里の長老様から聞かれると言うのはいかがでしょうか?

 私の里はすぐそこですから」

「分かりました」


 佐助のその言葉に従い、佐助と緋村と私の三人は細い道を奥に進み始めた。



 すぐそこ。と、佐助は言ったはずだと言うのに、歩いても歩いても周りの風景に大きな変化はなく、足がくたびれ始めた頃に、ようやく開けた場所にたどり着いた藁ぶきの家屋が点在する里。

 その中のひと際大きな家屋が長老の家で、その中の板の間に座り、私たちは長老と対面した。


「姫様には悪いが、我らは姫様の肩を持つと言う訳にはまいらぬ。

 我らの里もこの国の兵たちと戦をする訳にはまいりませぬのでなぁ」


 最初の言葉がそれだった。

「姫様のため、お守りいたします」なんて言葉を心の奥底で期待していただけに、がっかりと言うのが正直なところだった。

 

 そして、そんな味方をする気が無いと言う事を態度で示そうとしているのか、長老は私たちと対座し、話し合っていると言うのに、右手に筆を持ち、ずっと何かを書き続けているのだった。 

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