第11話
午前中に雨が降った。森に降る雨はそれだけでなんだかとても特別な雨に見えた。
秋のアトリエにはテレビはなかった。それにステレオやスピーカーのような音楽を聴く道具もなかった。アトリエの中には雨の降る音だけが聞こえていた。
私は秋の作ってくれた朝ごはんを秋と一緒に食べる。
トーストに目玉焼きに焼いたウインナー。サラダ。コーヒー。そんな献立が木のテーブルの上に並んでいる。(どれも美味しかった)
秋はとても自由だと思う。自由で真面目で真剣で、なによりも本気で人生を生きているように思えた。
私は自由ではない高校生という幸せな檻の中で暮らしている。そのことを不満に思ったりはしない。とても幸せなことだとわかってる。
それでも秋が羨ましいと思う。
私の荷物は小さな黒いリュック一つだけだった。そこに三日分のお泊まり用の荷物を詰め込んでいる。(着替えがほとんどだった。それ以外の生活用品は全部アトリエにあるものを使っていいよと言われていた)
遊び道具のようなものはなにも持ってきていない。
秋は朝ごはんを食べ終わると、お片付けのあとでまたベットの中で丸くなって(まだ少し眠いと言って)眠ってしまった。
私は本を読むことにした。秋の本棚にある本は全部どこか違う国の絵本ばかりだった。