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出会い

 食堂で昼ごはんを食べていると脇腹を突っつかれた。私の至高の時間を邪魔するなと念を込めて下手人を睨むと、食堂の隅にあるテレビを箸で指していた。

 どうやら私が火曜日に営業に行った顧客についてのニュースのようで、彼がVR含む未来技術反対派であったことや、相当過激な反対運動を扇動していたことが報道されていた。

 月曜日に見た分には大人しそうな男の人に見えて、なんでこの人が顧客になっているのか不思議に思ったが人は見た目によらないらしい。


「興味なさそうにしてるけど、コレあんたが担当した人でしょ?なんか思い入れとかないわけ?」


「別に深く知り合いなわけでもないですし・・・。月曜に一応来歴は聞きましたけど家族はいないそうで別に思い入れとかはないですね」


「そんなもんかねぇ。まぁ私はサポートだし、実務のあんたがいいって言うなら問題ないけど」


 問題ないなら話しかけないでほしい。私は今一日で三番目に幸せな時間を過ごしているのだ。ちなみに二番は朝食で一番は夕食だ。最近はVRゲームをしてる時間も結構ランキング上位に来ている。

 ただ彼女はサポートの中でも結構サバサバしていて個人的にはお気に入りだ。他のサポートみたいに説教をしたりしないし、何より職歴が長いのがいい。この業界のサポートたちはどいつもこいつもすぐ辞める。

 このサバサバ感はゲーム内で出会った大斧幼女に似ている。思えばサポートの彼女も背が低い。ないと思うが一応確認として聞いてみる。


「あ、安西さんはVRゲームとかしますか?」


「いや安藤ね。VRってRAWのこと?RAWならやってるわよ。メガイラって名前」


 まさかのRAWプレイヤーだった。大斧幼女とフレンド登録したときに名前は見ていたはずだが、イマイチ覚えていないので更に確認として聞く。


「大斧使ってたりしません?」


「使ってるわよ?ゲーム内で会ったっけ?」


 まさかのクリティカルヒットで驚く。

 私がゲーム内でオディアスと名乗っていることを伝えると、今夜ゲーム内でPTを組もうと誘われたので快諾する。もう少しPKが増えないとPTを組んだりできないなと考えていたのでこれは嬉しい誤算だ。


 ログインするとメッセージボックスにアップデートのお知らせが届いていた。大きな変更点としてはHP/MPの数値化だろうか。各種ステータスは見えなくてもいいがHP/MPは数字として見えてないと自己管理しにくいとクレームが多数寄せられたらしい。

 確かにこのゲームは攻撃等でHPが減っているときにしかHPバーが表示されない。事実私はこのゲームにMPの概念があることを今知った。


 約束の時間より早めにログインしたので一時間ほど余裕がある。前回は石室の中しか調べられなかったので、部屋の外を調べてみることにする。

 何かが黴びたような匂いと土の香りから地下と推測する。マップにも今いる石室しか表示されていない。恐らくここはダンジョン的な扱いなんだろう。


 鉄でできた扉をゆっくり押して開くと薄暗く臭い通路に出た。

 左右側に長く続いていて、奥行きもかなりあるかなり幅の広い通路に見えたが、光刃の光で照らしてみると中央に汚水が流れているのが見える。プレイヤーはゲーム内で排泄しないが、下水施設の入り口が街のあちこちにあることは確認されていて不思議がられていた。何かイベントがあるのではないかと掲示板で議論になっていたのが記憶に新しい。確かにPKプレイヤーが隠れるには最適な場所だ。


 とりあえず外に出ようと歩き出そうとすると、右手側からゆらゆらと明かりが近づいてくるのが見えた。私以外にPKプレイヤーの噂は聞かないので、MOBかNPCだろうと当たりをつけていつでも戦えるように盾とEVOLVEを構える。近づいてきたのはランタンを持った黒ローブだった。彼はどうやら私がいることに気がついてなかった様で、扉の前に立つ私に気がつくと素っ頓狂な声を上げた。


「オヤッ!オヤオヤオヤ?お客人!?アララララ珍しい」


「どうも。あなたは?」


「アタクシは冥府の導き手!悪鬼羅刹を誅するモノ!サァサァあの世へ行きましょう!」


 このゲームのPKの末路はかなり最悪のパターンだったらしい。彼のセリフ的にどうやら私は誅された上で冥府行きらしいが、要は彼に殺されたらデータ削除ということだろうか。先制を取ろうとしたが腕が上がらないどころか体が全く動かない。よく見るとカンテラの光に照らされて銀色の糸が私の体を絡め取っていることに気がつく。


「イヒヒヒヒッ!お客人サン?逃げるにはチョット遅すぎますねぇ・・・」


 もがく私に顔を寄せてきて、やっとローブに隠されていた彼の顔があらわになる。青い顔に落ち窪んだ頬と目、黄色い乱杭歯の間からはやけに赤い舌が覗いていて、それがさらに青い肌が更に際立たせる。


「マァこの下水道の中でアタクシから逃げるなんて出来ませんがねぇ・・・」


 糸が更に締め付けを増してHPのゲージがどんどん減っていく。そうして私の体は光になって砕けて消えた。


「はッ!?」


 目が覚めると私はさっきの石室に戻っていた。データが消されるかと思っていたが杞憂だったらしい。いつも死ぬときは後ろから攻撃を受けて死んでいるので、ああやってジワジワと殺されるのは初めてだった。人によってはトラウマになるのかもしれないが、私は攻撃されるまで全く気がつけなかったことに後悔が募る。まだ扉の外にはあいつが居るかもしれない。EVOLVEを起動し、扉を蹴破るようにして飛び出して光刃を振る。


「アラッ!?お客人サン!?」


 混乱したような台詞を吐きつつしっかり防御しているあたり腹が立つ。確実に捉えたと思っていたのに腕と腕の間に糸を幾重にも張って受け止められていた。


「お客人サンは古き神の祝福を受けていらっしゃる!?」


「多分?」


 受けているというかむしろアイテムとして持っている。


「でしたらこの地図とカンテラを差し上げます!イヤ、異教徒かと思いまして・・・先程は大変すいませんでした・・・」


 目に見えてシュンとしている彼にはもう害意はなさそうだ。

 カンテラと地図がトレードされてきて私のインベントリに収まる。彼はそのまま背中を丸めつつ去っていきそのまま闇の中に消えていった。

 ふざけた男だったが明らかに私より実力があった。

 彼のHPが見えなかったということは、不意に放たれた私の全力の一撃でも全くダメージを受けなかったということだ。流石にあそこまで実力差があると戦おうという気も失せる。見逃されて助かった。


 マップを手に入れたのは思わぬ幸運だった。マップを見るとこの下水道は相当複雑に入り組んでいる事がわかる。このままだと安西さんとの待ち合わせに間に合わないかもしれない。急いで向かうことにする。


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