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初めての・・・

戦闘描写って難しいっすね

 人工光以外の光を浴びる機会は今の人類には少ない。地上で生活するための各種浄化機の類は金食い虫で、必然殆どの人間は地下に潜った。まあ地下のほうが地上よりよほど生活水準が高いのでよほどのもの好き以外は地上には出ない。

 だから私にとって今日の仕事はわりと新鮮だったし、楽しくもあった。月曜日に顧客の所在を知らされたときからワクワクしっぱなしだったが、午前中に仕事が終わってしまったのには残念だった。

 だが私はいつもの私ではない。今日はRAWのメンテ明けが昼からあるので、装備をノールックで個人ロッカーに叩き込んで帰路につく。いつもならなんとも思わないエレベーターの速度にヤキモキする。前回あんなにいいところで終わったのだ。


 エレベーターが私の住む階層に着くまではまだ30分近くかかるので、メンテナンスの内容を調べることにした。


【改善点】

 サーバーの強化

 チュートリアルが受けられない問題の修正と、全プレイヤーにチュートリアルブックの配布

 魔法武器の値段を安価に

 公式サイトのFAQコーナーを更新


 2日かけた割には無難な内容で落胆する。むしろ2日であの人数に耐えられるサーバーに強化できたのがすごいのかも知れない。

 ついでなので公式のFAQも覗いてみる。


 Q.NPCにAIが搭載されている。これは明らかな法律違反ではないか?

 A.このゲームにおいてAIはEVOLVE関連のシステムのみを担当しています。またNPCは仮想空間内での肉体に 

  すぎない為、仮にAIが搭載されていてもAI基本法の『AIは肉体、又はそれに準ずる機能を持つ機体への搭

  載をしてはいけない』には抵触しないと、未来技術庁に保証されています。


 以下永遠と、VRMMO反対派と詭弁しか話さない運営との不毛なやり取りが続いているので読む気がしなくなる。運営はAIを研究している団体から大量の献金を受け取っていることも、未来技術庁にアホみたいな額の寄付をしていることも、全く隠さないから反対派に叩かれていることを解らないはずないのだが、彼らが不毛な争いをしているおかげで私の仕事は増えているので文句が言えない。


 あまりにも待ち遠しかったので、エレベーターを降りてからタクシーを拾う。アパートは昇降駅から遠いのでそれなりの金額になったが、ゲームが最優先である。今日の仕事の報酬は明日には口座に振り込まれるので、大家の怒鳴り声で起きることもなくなるだろう筈。


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 ゲームにログインすると神殿の中だった。強制ログアウトされた地点にログインするかと思ったので少し驚く。

 早速EVOLVEを起動してスキルを発動する。みるみるHPが減っていき、EVOLVEの溝が光り輝く。6割ほど消費した後、薄い光の刃が板の周りに展開され、私の近未来角材ちゃんは近未来日本刀様として覚醒を果たしたのだ。

 黄色い非実体ブレードは薄く黄色く輝き、ブウウウンと虫の羽音のような音を立てている。神殿の床に触れさせてみると、分厚いゴムの塊に当てたかのように軽く弾かれる。

 神殿横にあるらしい武器屋で防具を調達しようと思っていたが、予定を変更して犬をいじめに行くことにした。


 町の外は、相変わらず無言でうさぎを追いかけ回す修羅たちで溢れている。守衛のNPCの口元は変わらず引きつっている。これ絶対AI搭載してるよねとツッコみたくなるが、どうせ運営は認めないので言うだけ無駄だ。

 修羅たちの間を抜けて、野犬出没地域までステータス上げも兼ねて走っていく。どうもプレイヤーが増えているようで、人口密度が朝の昇降駅前と同じくらいになっている。


 今日はじめての犠牲者?犠牲犬?を見つけて後ろから斬りかかる。神殿から展開しっぱなしの光刃を、走ったままの勢いで叩きつけ、怯んだところを蹴り飛ばす。犠牲犬一号のHPは一連の動きで6割ほど削れている。攻撃型のEVOLVEの面目躍如だ。昨日は10回切りつけないと死ななかったことを考えると、異常な威力だ。後はもう流れ作業で、飛びかかってきたところを切りつけてとどめを刺す。

 EXPは10%ほどしか溜まっていない。適正レベル帯のMOBにしてはむしろ貰えている方かもしれないが、この減り幅だと次レベルが上ったらもう狩場を移さないと辛いかもしれない。

 兎狩りを卒業したプレイヤーたちがやってきているのか、犬の数が少ない。数匹いる犬達もすでに誰かと交戦していて、空いていない。新しい犠牲犬が湧くまで他プレイヤーのEVOLVEを観察することにした。


 見回して一際目を引くのは、3m強の大斧を振っているピンク髪幼女だ。このゲームは未成年では購入できないので、あれは『リアル合法ロリピンク巨大武器使い』というオタクの妄想を具現化したような存在だ。わりと素早く動く犬に攻撃を当てられないようで苦戦している。当たらないことに痺れを切らしたのか、大きく振りかぶって全速力で投げられた凶器は、回転しながら明後日の方向に飛んでいき、バックラーと片手剣装備で戦っている男性の後頭部に当たった。青い光とともに消えていく哀れな男は、最期まで何が起きたか理解できなかっただろう。

 無抵抗の男性を強襲した幼女の頭上には、オレンジ色で逆三角形のターゲットマーカーが浮かんでいる。

 なるほどPKプレイヤーはあんな感じになるのか。メニューからヘルプを開くと、オレンジのマーカーは攻撃可能の意味らしい。

 正義の名のもとに、PKができる絶好の機会を逃す訳にはいかない。


 思ったより早く立ち直って逃走を図っている幼女に光刃を投げつける。


「きゃっ」


 見事足に命中し、相手の体勢を崩すことに成功する。


「誤解です!殺す気なんか・・・」


「悪質なPKめ!成敗してくれよう!」


 手元に光刃を召喚し直し、斬りつける。私は正義のPKK。悪に鉄槌を下すのだ。


「弁解させてくれないです・・・。と言うか、私がPKになってから攻撃までが早すぎです!」


「死ねぇ!」


「殺意高すぎです!?この人ただPKしたいだけじゃ・・・」


 余計なことに気が付きやがって。感の良いガキは嫌いだ。ぶっ殺す。

 どうも本気で闘う気はないらしく、あの大斧を召喚しない。というか、あれでぶっ叩かれたら確実に死ぬので、無抵抗ならさっさとケリを付けたい。

 振り下ろしを半身になって躱した所を、逆袈裟に切り上げる。しゃがんで回避されたので顎を蹴り上げる。


「ぐぅッ!」


 思ったより体重が軽く、吹き飛びすぎて距離が空いてしまった。


「どうせ1人も2人も変わらないです!殺られるくらいなら殺ってやるです!」


 嫌な感じの開き直り方をした幼女が大斧を召喚する。

 露骨に首狙いで横から振られた斧が思ったより大きく、躱しきれずに光刃で防ぐが、かなりの衝撃で体が吹き飛ぶ。光刃の起動で6割削れていた体力が、更に2割持って行かれる。

 幼女の体力は未だ8割強残っているが、こちらはもう後が残ってない。

 というか、こちらはなかなかのHPを消費してEVOLVEから光刃を発生させているのに、似非幼女のHPがガッツリ10割残っているのは何故だ。掲示板のEVOLVE一覧を見るに、どのEVOLVEも能力を発揮するのにそれ相応の代償を払っている。


 幼女のEVOLVEの代償を考えているうちに、形成は逆転していた。

 もともと犬に苦戦する程不器用な相手だ。初撃ならともかく、間合いを把握した以上そうそう攻撃は貰わない。

 振り切られた斧の間合いの内に潜り込んで突きを放つと、薄いガラスが割れるような感覚とともに薄オレンジの光りに包まれて幼女が消えていく。


「覚えてろ・・・です・・・」


 初戦の相手としてはなかなか骨太だった。

 消え行く幼女に手を振って煽っていた私は、後ろから飛びかかってきた犬に反応できずに、HPを全損して死んだ。消えていく私を、消えていく幼女がニヤニヤと煽る。なかなかいい性格してんなこいつ。


 神殿から出るとあの幼女が待ち構えていた。オレンジのマーカーは依然頭上にある。偶然生まれたとは言え貴重なPKプレイヤーだ。攻撃されているとは言え、人間の首元に大斧を叩きつけようとする彼女には才能がある。その後1時間謝り倒して許してもらった後、フレンド登録して別れた。

 こうして私の初めてのPKは終わった。

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