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初日強制終了のお知らせ

 神殿を抜けると割りと閑散と広場に出た。

 中央に噴水を構える円形のそこには、100人いるかいないかくらいのプレイヤーがチラホラと見受けられた。サービス初日にしては随分人が少ない。別のchに割り振られているのかと推察したが、そもそもこのゲームがch制になっているのかもよく知らないことに気がつく。

 画面下部のタスクバーにはインベントリと、装備画面兼ステータス画面くらいしか選べず、他の8個ほどの枠は空になっていた。思えばトレイラーでは、右手を顔の前で振ることでメニュー画面を開いていたなと思い出して、右手を振ってみるも反応しない。ムキになって高速で振ってみるが、うんともすんとも言わない。神殿から出た途端、高速で腕を振り始めた私を、訝しげに他のプレイヤーたちが見ていることに気がついて、顔が赤くなる。俯いて広場から逃げ出そうとするが、そもそも街の何処になんの施設があるのかすらわからない。にっちもさっちもいかなくなって、テンパっていると後ろからやけに渋い声で声をかけられた。


「ねえ君。メニューの出し方がわからないのかい?」


 振り返るが、黒いストレートロングのスレンダー美人さんしかいない。キョロキョロとあたりを見回して、先程の声の主を探していると、美人さんが話しかけてくる


「いや私以外君の周りには誰も居ないよ」


「は?え?いや、声・・・男・・・?」


 ゲーム初めて初手で幻覚を聞くとかやべーな私。とか考えていると、美人さんの口から大塚明夫みたいな声で追撃されて、あっさり私の処理能力が限界を突破した。確かキャラメイクに音声を選ぶ項目はなかったはずなので、コレは中の人の声そのままなんだろう。ついでにいうと性別も変えられないので、美人さんは女ではなく男なのだろう。思えば全く胸がない。


「男が女キャラを演じていて何か不都合があるかい?」


「アリマセン・・・」


 更に大塚明夫ボイスで追撃をかけてくる美人さんに私は屈した。不都合はないが不気味であるとか、何故そんな中身モロバレの声を放置して、女キャラに見せかけているのかとかの疑問は尽きないが、一先ず思考の果てに捨てておく。大事なのは激渋ボイスのネカマであるということよりも、メニューの出し方を教えてくれそうだという唯1点だ。


「ゲヘヘ。卑しい私にメニューの使い方を教えてはいただけませんか」


 プライドは今捨てられた。大家に土下座して以来、30時間ぶりの卑屈モードに突入した私を止められるものなど存在しない。急に媚び始めた私に慄く美人さんに、更に畳み掛ける。これからのゲームライフがかかっているのだ、靴ぐらい舐めれる。むしろ舐めたい。権力者の靴を舐めて生きていきたい。


「人差し指を曲げて振らないとメニューは出ませんよ。と言うか神殿内でチュートリアルは受けてないんですか?」


 自信な有りげな口調から弱めの敬語に変わっているあたり、美人さんとの心の距離が急速に開いた気がするが、メニューの開き方がわかった以上もうこのネカマと会うこともないだろうから問題ない。お礼を言って広場の端に移る。メニューからオプションを選んで、HPバー、MAP等を表示させる。広場から北に真っ直ぐ出ると最初の狩場である草原につながっているようで、思えば北側にそそくさと駆けてゆくプレイヤーが多い気がする。EVOLVEの性能を確かめるために私も街を出ることにした。


 街の外は、我先にとうさぎ型MOBに襲いかかるプレイヤーたちでごった返していた。心なしか守衛のNPCの口元が引きつっている気がする。私はリスポンポイントである神殿周りが閑散としていることを疑問に思っていたが、彼らは皆真っ先にMOBを倒しに出ていたらしい。一匹のうさぎを5人くらいで追いかけまわしているあたり、ここは完全に飽和しているようだ。草原の奥に進んでいくとプレイヤーもまばらになったので、EVOLVEを呼び出してMOBと戦ってみることにする。この辺りはうさぎ型ではなく犬型のMOBの生息圏らしく、大型の野犬がそこかしこに徘徊している。


 ノンアクティブなのかと思い、10m程の距離に近づくと全速力でとびかかってきた。急なことだったのと、あまりのリアルさに躱しきれず左腕に噛みつかれる。強めに叩かれたくらいの痛みと共に、画面右上の赤いHPバーの2割ほどがグレーアウトする。大きく腕を振って犬を弾き飛ばして、腰を落として低く構える。再度とびかかってきたところを、すくい上げる様にEVOLVEで殴打する。吹き飛んだ犬の頭上に1割程が灰色になったバーが浮かぶ。こちらが5回攻撃されただけで死ぬのに、10回攻撃しないと倒せないらしい。倒せるか心配になったが、基本的に同じ攻撃しかしてこないのでその後は完封できた。青い光となって消えていく犬を前に勝利のガッツポーズ。途中でEVOLVEが覚醒してくれたりしないかと期待したが、私の深層心理を読み取って作られたこの板は終始板のままであった。

 画面下部のEXPバーは今の一匹で2割ほど溜まったようだ。スキルには機械刀とあるのだから、レベルを上げるなりなんなりすれば刀っぽくなるのかも知れない。このあたり一帯の犬たちの死が決定した瞬間であった。


「5匹目ッ!」


 一撃加えて倒れたところを滅多打ちにすることで起き上がる隙なく倒せることに気がついてからは、一匹にかける時間が大幅に減った。青い光に包まれる敗北者を前に、私の体は赤く発光する。すぐさまステータス画面を開く。


 オディアス

  装備

  頭 - なし

  体 - 初心者の服

  足 - 初心者の靴

  武器- EVOLVE『フォトン』

  スキル

 機械刀 lv2

  - HP変換充電


 それっぽいスキルが生えた事に満足。タスクバーにドラッグすると電池型のアイコンが出た。タップしてみると右腕から何かを吸われるような感覚と共に、ごりごりHPが減っていく。5割を割ったくらいで、今までチロチロと光が走っていた板の表面に刻まれた溝が発光し始めた。ますます減るHP、上がり続けるテンション、強くなる光量、我が家のアパートの天井。我が家のアパートの天井?ベッド型のハードから身を起こすと、愛しの6畳間が迎えてくれた。飛びつくようにスマートフォンでRAWオンラインの公式サイトを開くと、サーバーに負荷がかかりすぎて強制ログアウトを実施した旨と、緊急メンテナンスのお知らせが入っていた。


本日の成果


キャラメイク

レベル1上昇


以上。


 これからって時に邪魔されて私のテンションは地の底だ。なんてむごい仕打ちをするのだ。私の怒りは有頂天に達したが、0時を回った時計と明日の朝の会議のことを思い出して急速に冷めた。どうせ今日はこのぐらいの時間でログアウトする予定だったのだ。これは予定通りなのだ。明日起きたら枕元が濡れているなんてことはないのだ。

 こうして私のVRゲーム初日は失意のまま終わったのだった。


話全然進んでなくてすいません。次こそはなんか動きがあるように頑張ります。

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