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伊能忠敬邸 対外政策談義 <C146>

松前奉行配下から、新しい人が登場します。


■ 文化十四年、6月26日(1817年8月8日)深川黒江町


 俺が意識が戻ったのは、翌日の朝であった。

『健一様、気づかれましたか。もう朝になっておりますよ。

 今朝はもう朝食も終わり、皆様お揃いです。

 今日より松前奉行配下から1名の若い方が参加されます』

「皆様、妙見菩薩様がたった今戻られました」

「菩薩様、昨日は色々とご指導頂きありがとうございました。

 内容に夢中になるあまり、退出のご挨拶もできず大変失礼致しました。

 今後もご指導頂ければ大変助かりますので、よろしくお願いします」

 日下さん、小出さんが一際深く平伏する。

「俺は平凡な17歳の学生だったので、知っていることは本当に僅かです。

 数学の単元名とその概要位であれば、事例という形で説明できるところもまだ若干あると思います。

 ただ、どちらかというと出来ない生徒の方だったので、俺の発言にあまり期待しないようお願いします」


「今朝から、こちらの若者を参加させるよう連れてきました。

 松前奉行の配下で、まだ20歳になったばかりの渡辺清一郎です。

 海防にかかわる話も出るということで、お奉行に了解を得てこちらの活動に暫く参加させようとなりました。

 まあ、雑談のような年寄りの話しが多いが、何かと役に立つことも聞けるという触れ込みで納得して頂いた次第です」

 間宮さんは一回半ひとまわりはん若い人を教育する意味で取り込んだようだ。

「渡辺清一郎でございます。

 お役目に役立つ有益なお話が聞けるということで、今回より参加させて頂きます。

 間宮様からは、妙見菩薩様の霊験あらたかと聞いております。

 よろしくお見知りおきください」

 これで、伊能翁・高橋・間宮・日下という年寄り4人組みと、伊能/天文・渡辺/海防・小出/算術に俺=八兵衛という若い4人という構図がであがった。


「今日は、一昨日の蒸気船の話が出る前の不平等条約という所に焦点を絞って話しをして見ませんか」

 高橋さんが全体を仕切る。

「判りました。

 俺の私見ですが、全体を理解する構図を提供しますので、そこから考えましょう。

 まず、日本には大量の金というお宝があり、西洋諸国はこのお宝を強奪しようと狙っているという点を強く意識してください。

 特に、アメリカ・イギリスという2強国はこの感じが強いです。

 それに加えて、ロシアは領土というやっかいな問題がありますが、領土についてはまだ対応が可能な時期と考えます。

 その他に意識する西洋諸国は、フランス・オランダ・スペインがあります。

 この6カ国はそれぞれがライバルなので、同一視する必要はありません。

 各個に国内事情をかかえていますので、同じ条件と考えず、状況に応じた談判をすれば良いと考えます。

 一番問題なのは、交渉の主権を持つべき日本政府側に条約案がない所です」

「海外からの交易という面では、先の西洋諸国以外に、朝鮮・清からの船がありますが、こちらは特段の脅威はありませんので、後回しにして良いと考えます」

 俺は思い切り開国前提の方向に舵を切ろうとした。


「日本のお宝を蹂躙されてしまわないためには、今の鎖国を維持する方法もあるのでしょうが、大国の清でさえ打ち負かされてしまう軍事力を持った西洋諸国に対抗できる軍事力がなければ、鎖国は維持できません。

 圧倒的に劣る軍事力を強化するには、それを支える科学技術や産業が必要ですが、それが西洋諸国に比べ圧倒的に劣っています。

 ならば、西洋文化を教師として取り込み、国力を増やさねばなりません。

 すると、今のように藩ごとに細々と領地の経営を各地域毎に任せる方法では効率が悪くて追いつけなくなります。

 すなわち、国の体制を幕府と藩という仕組みから、一点に集中させた中央集権に模様替えしていく必要があると考えます」

 俺は、鎖国を維持するための方便としての開国という概念をも口にした。

 藩毎に経済が独立している今の仕組みは、投入できる資本量が細分化され非効率であるため、日本としての中央集権が好ましいことを述べたつもりなのだ。


「申し訳ありませんが、話しが大き過ぎて、取っ掛かりようがありません。

 もう少し、視点を近くに持ってこれませんか。

 例えば、樺太のロシア対応とか」

 間宮さんが声を上げた。

 確かに、これでは何をどう検討していけばよいか、方向性がない。

 俺は、話題をロシア対応にまず絞ることに同意した。


「おっしゃる通りですね。

 では、ロシア対応について、俺が考えている対応を説明します。

 基本は、いくつか開港し通商を行う方向で和親条約・通商条約を結ぶ方向ですが、この条件としてまずは樺太全島の領有権と千島列島の北東端・占守しゅむしゅ島までの領有を主張します。

 落ち着き所ではなく、譲歩する余地を残した最初の主張です。

 この領土の主張はロシアに提示するだけでなく、イギリス・フランスに認めてもらうことが重要です。

 そして、この根拠として間宮様が測量された地図を日本国政府が領有している証として提示します。

 ただし、この地図についてはわざと間違いを、何か所か混入させておきます。

 これは、他国が地図を複写して領有を主張した場合の証拠とするためです。

 現に、ロシアはまだ樺太が島と認識していません。

 こういった事実をロシア以外の国に主張することで、実効支配を認めさせるのが良い方法です。

 異国への工作を行う一方、樺太・千島の各要所には日本国政府領有の石碑を建立します。

 これも実効支配を裏付ける重要な役割を果たします。

 可能であれば、内地人の居留地を作るのが良いですし、定期巡回するだけでも効果があります。

 なお、アイヌ人には、その生活に極力干渉しないよう留意してください。

 多少の交易は良いですが、搾取に相当する行為は避け、むしろ保護してください。

 彼ら先住民族の意識が重要で、万一ロシア・日本で帰属を明確にしなければならなくなった時に、反日姿勢を取られないようにする対応です。

 現地に先住するアイヌ人は日本民族だと認識する・させることがとても重要です。

 これらの対策には費用はかかりますが、将来的には採算があいます」


「ロシアを牽制するために、イギリス・フランスを使うという話はなんとなく判ります。

 しかし、そのためにはイギリス・フランスと話をする窓口が必要です。

 また、ロシアとも交渉するための窓口が必要ですよね。

 そのあたりの具体的な施策は何かありますでしょうか」

 今回から初参加の渡辺さんが口を挟んできた。

『なんとなく判る』という感覚はとても重要で、こういった途方もない意見を最初から拒絶するようでは、外交交渉なんてものはできないと思う。

 どんな突拍子もない意見でも、可能性があれば突き詰めて考えておく姿勢が大事なのだ。

 間宮さんは良い人選をされたと感心した。


「実は良い案は持ち合わせておりません。

 しかし、外国へ漂流しその国の言葉を覚えてしまった人、ほとんど漁師や廻船の乗り組み員なんかでしょうが、を特定の場所に集めるようにしてはどうでしょうか。

 今はこういった人を、それぞれの藩などで単に隔離しているだけだと思いますが、実にもったいないと感じています。

 こういった人を集めたところに、通詞の専門家を交え、異国を知るための部署を幕府内に設ける必要があると考えます。

 ロシア対応という意味では、大黒屋光太夫さんや高田屋嘉兵衛なんかをもっと優遇し、活用されても良いと思いますが、今はどう処遇されておりますでしょうか。

 また、彼以外にロシアと接触し文化に精通された漁民もいるのではないでしょうか」

 俺から個人の消息を聞くのは、2回目のことだ。


段々史実から外れています。ちなみに大黒屋光太夫は江戸住まいで、この時点ではまだ存命中です。

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