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伊能忠敬邸 蒸気船 <C143>

前回の中から、判りやすい部分が切り出されての質問・説明となっています。

くどいのは判っていますが、止まらない!

■ 文化十四年、6月24日(1817年8月6日)午後遅く、深川黒江町


 俺の心情の吐露の後、忠誨ただのりさんがウンウン唸りながら書付をしているのが判った。

 今回初めて参加した小出さんは、話の内容は理解しようもないだろうし、もし理解できていたとすれば、その中身にとても驚いているに違いない。


 しばしの間が空いてから、間宮さんが声を上げた。

「妙見菩薩様、海防の困難さに蒸気船を上げておられますが、蒸気船とは何ものですか。

 私は外国の船としてロシアの軍艦も見ておりますが、蒸気船がどういったものを指すのか判りません。

 そして、それが海防の困難さとどうつながるのでしょうか。

 お教えください」

 蝦夷地でロシア相手に苦労された間宮さんの、体験を踏まえた質問が飛んできた。


「今の時代、通常遠洋航行する大型船は、概ね帆を使い風の力を受けて進む帆船です。

 しかし、蒸気船とは、船を動かす力に風ではなく、船の中で作った蒸気の力を動力として推進する船です。

 船の中で蒸気を作るため、水を熱する釜があり煙突があるところが特徴です。

 蒸気の力で得た動力を、最初は船の横につけた水車に伝え、これを回して進む外輪船という形が最初は現れますが、やがて船尾の喫水下にスクリューを設けこれを回して進む形に代わります。

 船の中で燃料を燃やして水蒸気を作りますが、このための水はありますが、燃料は船の中に持っているだけしかありません。

 このため、燃料を補給できる港をできるだけ多く確保することが急務となったものと考えられます」


「海防の困難さですが、これは風まかせで運行させている帆船と、自力で進める蒸気船の差でわかると考えます。

 アメリカのペリーが1853年に軍艦4隻の蒸気船を率いて浦賀に来航しました。

 複数の船で隊列を組んで行動するのに、風任せの帆船は向いていません。

 ところが、蒸気船であれば無風状態も大時化も関係なく船を進めることができます。

 艦隊を組んだまま、狙った場所に予定通り到着できるのです。

『帆船であれば、大部隊を送り込むことはできない』ということを前提に考えていた幕府は、蒸気船の艦隊が浦賀という江戸のすぐ近くに現れたことでこの条件が無くなったことを初めて認識して慌てたのではないでしょうか。

 そして、いつどこにでも上陸できる力を持つ外国勢力に対し、対抗できる力があるか無いと判った時に、不利な内容でも条約を結ばざるを得なかったのだと思います」


 高橋さんが割り込んできた。

「なるほど、よく判りますが、蒸気の力の動力というのは、どのようなものですか」

 やはりそこが気になりますよね。

 これは長くなりそうだ、と思った時でした。

「水を差すようで申し訳ないが、早めの夕食にしませんかな」

 伊能翁、ナイスです。

 夕食は、雑穀米のご飯に一汁三菜だった。

 しかし、もう皆はゆとりなく、一心不乱にともかく急いで食べる。

 この後の話しを早く聞きたいのが、スピードでわかる。

 俺への暗黙のプレッシャーになっている。

 実は蒸気機関にはピストン式とタービン式がある。

 また、復水器を持ち負圧を使用するもの、そのまま蒸気を放出してしまうものなど、色々な種類があるのだ。

 どれを説明するのが良いのか。


「さあ、早く説明をお願いしますぞ」

 まあ、食事は八兵衛さんに任せて、その間俺はどう説明しようかに没頭していた。

「俺が説明できるのは、あくまでも原理です。

 実際にこれを実用化するには多くの課題が出てきますので、その点は理解ください。

 水を沸騰させて水蒸気にすると約1500倍に膨張します。

 また、水蒸気を冷やして水に戻すと、その逆の約1500分の1に圧縮されます。

 この膨張や圧縮で発生する力を閉じ込め、特定の方向に向けて作用させることで、運動力に変換させるものを蒸気機関と呼びます」


「蒸気機関には、水蒸気を発生させる釜があり、ここで水を熱して水蒸気にします。

 釜から出てくる水蒸気は圧力を持っているので、この圧力を押す力として使います。

 この押す力の使い方に大きくは2通りあります。

 一つは、筒の中に誘導して筒の仕切り板を押す力として取り出す方法。

 フイゴの逆を想像して頂ければと思いますが、これをピストン式と呼称します。

 もう一つが、風車のようなものの羽に当てて回転する力として取り出す方法。

 これをタービン式と呼称します」


「ピストン式にしても、タービン式にしても、用途や環境に応じて付属するものの構成が変わり、また効率が違う様々な方式のものがあります。

 その付属するものの中で一番有無が目立つのが、水蒸気を水に戻す『復水器』の存在です。

 復水器によって水蒸気が水に戻るときに発生する負圧を動力として使用できますが、水蒸気を冷やすための設備が必要となります。

 一方、復水器が無い場合、釜に継ぎ足す水を外部から持ってくる必要があります。

 なお、この水は淡水でなければなりません。

 海水を使用すると、釜の中に塩が溜まり使い物にならなくなります」


「ピストン式とタービン式の大きな差は、最初に得られる力の差があります。

 ピストン式では、蒸気の圧力をそのまま運動力にするので、結構大きな力を最初から引き出すことができます。

 タービン式は、羽に吹き付ける形なので、一定の回転になるまでの力・トルクはピストン式より小さいというのが一般的です」

 半紙に図を描きながらざっくりと原理と構成を説明したが、何分記憶に頼るところなので、間違いや誤解が多く入り込んでいるのはしょうがない。

 忠誨さんがもう青息吐息という状態を見かねたのか、小出さんがフォローして記録取りを手伝っている。

 若い3人が筆を取って書き物をする傍ら、5人の大人が話しをじっと聞いているという構図は悪くはない。


「西洋の蒸気船は、復水器を持つピストン式の蒸気機関を搭載していると思います」

 ここで、俺は時間はかかったが、どういう構成のものが乗っているかを図示した。

 そして、ピストンの前後する力を回転させるためのロッドと、力の不均衡や回転力を均一にするためのおもりの存在をも図示した。

 最後に、この回転する軸が船尾を貫いてスクリューに行き、スクリューが回転して推力を出していることを図示した。

「繰り返しになりますが、ここに書いたものや説明は、原理やそれから導いたことの概要でしかありません。

 そのままこれを実現させるには、多くの実験・試行錯誤や細かな発明の積み重ねが必要です。

 ただ、こういった物があると判っていることは重要で、そのものが出現したときの驚きを半減させる効果があります。

 西洋世界にはこういったものが出回っていて、原理はこうだという情報は少しずつ要所に浸透させていくのは必要と考えます。

 また、これを自分たちの手で作り上げるのは、原理がわかっている分多少容易ではないかと考えます」

 俺はここで気力を使い果たして、意識を落した。


やはりくどいですね。事実と相違する点は、主人公の記憶違いということでご容赦ください。


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